よくある失敗:上から配って、下で止まる
見積もりだけが先に進んだときに起きやすいことを、3つだけ挙げます。
タブレットを配ったが、入力が夜勤帯に集中する。 紙のときは手が空いたときに書いていた記録を、決まった画面で決まった順に入力させると、書く時間帯が固まります。様式の項目が多いほど固まります。
二重入力が残る。 電子に入れたあと、家族向けや監査向けに紙も作る。これは電子化の失敗というより、様式を作り直さなかった結果です。
使わない機能に費用を払い続ける。 何に困っているかを決めないまま選ぶと、機能の多さで選ぶことになります。
どれも、機器の性能ではなく様式と運用の問題です。だから、先に様式を整えると書きました。
費用をかけずに試せる範囲
様式を1枚選ぶ
候補になりやすいのは、毎日書くもの、職員によって書き方が割れるもの、あとから探されるものです。介護記録、申し送り、ヒヤリハット、送迎表あたりが当てはまります。
書き方が割れている状態で電子にしても、割れたまま蓄積されます。記録の言葉づかいをそろえる話は
介護記録の書き方と
介護記録で使ってはいけない言葉に、場面ごとの例で書きました。
ブラウザのアプリで試す
紙の様式をそのまま画面にすると、たいてい項目が多すぎます。実際に入力してみると、書かれない欄と、毎回書き足される欄が見えてきます。
exbk.jp の介護アプリは、見本データが入った状態で開きます。
事故報告書や
介護記録の画面で、自分の事業所の様式と項目を見比べてみてください。見本は自由に書き換えて試せますし、消して白紙から使うこともできます。
介護アプリの一覧画面。表示しているのはすべて見本データです
書類ごとの詳しい書き方は、
事故報告書、
ヒヤリハット、
フェイスシート、
サービス提供記録、
認定の有効期間の管理の記事にそれぞれまとめています。
生成AIに下書きを作らせてみる
この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、見本データで介護記録の下書きを作らせました。与えたのは、走り書き程度の次のメモだけです。実在の利用者ではありません。
> 9/29 14時ごろ 見本ハナさん 昼食のこり半分 のど痛いと 熱37度 看護師に伝えた
返ってきた下書きは、こうなりました。
> 見たこと・聞いたこと(事実):14:00ごろ、居室。昼食は主食・副食ともに半量残す。「のどが痛い」と話された。体温37.0℃。
> 気づき・判断:食事量が普段より少ない。のどの痛みのため食べにくかったと思われる。
> 対応・その後:看護師に報告した。
事実・気づき・対応の3つに分ける形には整いますが、メモになかったことは当然そのままです。報告した時刻、誰に報告したか、そのあと何を見るか。そこは書いた職員しか知りません。生成AIができるのは、形を整えて抜けている欄を目立たせるところまでで、中身を埋めるのは人の仕事です。
この使い方であれば、利用者の氏名を入れずに試せます。介護での生成AIの使いどころと注意は
介護現場でのAI活用に整理しました。
導入事例の読み方
「介護 ICT 導入事例」で探すと、機器の名前と削減時間が並んだ記事が多く出てきます。ただ、事業所の規模も、もとの様式も、職員の年齢構成も違うので、数字だけを持ち帰っても自分のところでは再現しません。
厚生労働省の生産性向上ポータルサイトには「取組事例紹介」のページがあり、サイト内でも、ほかの事業所の課題や解決策をきっかけにするとよい、と案内されています。同じサイトの
取組に活用可能な各種ツールのページでは、ガイドライン、動画教材、取組事例、推進スキルの手順書などが紹介されていて、介護記録を見直したい場合として、項目形式の介護記録法の導入マニュアルも挙げられています。
事例を読むときに見るところを表にします。
| 見るところ | なぜ |
|---|---|
| 導入前に、どの業務のどこが詰まっていたか | 自分の事業所の詰まりと重なるかを確かめるため |
| 様式を作り直したか、そのまま電子にしたか | 作り直していない事例は効果が出にくい |
| 誰が進めたか(管理者か、現場の職員か) | 進め方がまねできるかどうかが変わる |
| 定着までにかかった期間 | 数か月かかるのが普通だと知っておくため |
国や自治体には、介護ソフトや端末の導入を支援する仕組みもあります。ただし対象や金額、募集の期間は年度で変わるので、この記事では金額を書きません。所管の自治体の案内と公式ページで、そのときの条件を確かめてください。
始める前に決めておくこと
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個人情報の扱い。 どの道具に何を入れてよいか、事業所の決まりを先に文書にする
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誰が決めるか。 様式の最終決定をする人を1人決める。委員会で毎回持ち帰ると進みません
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やめる紙を決める。 増やすだけだと二重入力になります
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戻せるようにしておく。 データの書き出しや印刷ができるかを、試す段階で確かめておく
このうち個人情報の扱いだけは、無料で試す段階でも先に決めてください。試用の名目で利用者の氏名を外部サービスに入れてしまうと、あとから取り消せません。
職員が様式を作れるようになると何が変わるか
ここまでの段階1から4を回すと、「うちの様式はこうしたい」が言葉になります。そこまで来ると、ソフトを買う場合でも要件が書けますし、買わずに自分たちで作る選択肢も出てきます。
exbk.jp の介護アプリは
という道具で作りました。日本語で指示を書くと、その通りに動く画面を作ってくれる仕組みです。
介護事業所向けの Claude Code 研修では、介護記録、事故報告書、送迎表といった実際の書類を題材に、Zoomのライブ形式で、その場で作りながら進めます。全10時間(2時間×5回)で、最後は自分の事業所の業務を題材にした演習です。対象は、介護職員、生活相談員、介護支援専門員、事務員など、これらの書類を担当している方です。一般的なAIの使い方は扱いません。
まとめ
1. 介護のICT化は、記録と情報共有の様式を整える取組が土台にある。厚生労働省の7つの取組にも「ICT導入」という項目はなく、「記録・報告様式の工夫」「情報共有の工夫」が並んでいる
2. 始めるのは、毎日書く書類1枚から。棚卸し、項目の決め直し、無料のアプリで試す、ここまでは費用がかからない
3. 生成AIは、走り書きから形を整えるところまでは助けになる。時刻や報告先を埋めるのは人の仕事
4. 事例は、削減時間ではなく「どこが詰まっていたか」と「様式を作り直したか」を読む
5. 補助の金額や条件は年度で変わる。所管の自治体と公式ページで確かめる
紙の様式を1枚選んで、職員が自分の手でアプリにしてみる。その手順を身につけるところから始めたい方は、
介護事業所向けの Claude Code 研修をご覧ください。