工場の安全担当になって最初に困るのが、ヒヤリハットの扱いです。用紙は配った、箱も置いた、月に何枚か入ってくる。それを安全衛生委員会で読み上げて、終わり。

この記事は、その先に進みたい人に向けて書きました。工場で挙がりやすいヒヤリハットを種類ごとに見本の事例で並べ、集まった報告を場所・時間帯・種類・対策の状況で数えて、次に直す場所を1つ決めるまでの手順をまとめます。事例はすべて書き方の見本で、実在の工場や人の話ではありません。

先に結論:数えられる形で書いて、月に1つ直す

やることは2つだけです。

やること中身
数えられる形で書く日付・時刻・場所・種類・何があったか・原因・対策・対策の状況を、1件1行で書く。文章の報告書にしない
月に1つ直す場所・時間帯・種類で数え、いちばん多いところを1つ選んで直す。直した結果を翌月に返す

ヒヤリハットを集める目的は、枚数を増やすことではありません。同じ場所で同じことが3回起きているという事実を見つけて、その場所に手を入れることです。そのためには、文章ではなく、あとで数えられる形で書いてもらう必要があります。

exbk.jp のヒヤリハットは、その1件1行の書き方をそのまま画面にしたものです。月を選ぶと、場所・時間帯・種類・対策の状況ごとに件数が出ます。無料で、登録なしで使えます。

ヒヤリハットアプリの画面。見本データとして、架空の工場の2029年9月の7件が入っている
ヒヤリハットアプリの画面。見本データとして、架空の工場の2029年9月の7件が入っている

現場の書類を自分たちの手で形にしたい、という段階まで来ているなら、製造業向けの Claude Code 研修で、社員が自分で作れるようになる道もあります。研修については記事の終わりでもう一度触れます。

工場のヒヤリハット事例(見本)

種類ごとに、よくある場面を並べます。数字も名前もすべて見本です。

はさまれ・巻き込まれ

場面書き方の見本原因として書けること
金型交換金型交換中に、別の人が足踏みスイッチに触れそうになった段取り替え中の表示をしていなかった
プレス作業プレスブレーキで小さい部品を曲げるとき、指が刃の近くに入った小さい部品を手で押さえていた
搬送機コンベアの詰まりを、停止させずに手で払いそうになった停止ボタンが作業位置から遠い

転倒・つまずき

場面書き方の見本原因として書けること
通路ボール盤の横に置いた部品箱につまずきそうになった置き場の表示が無い
床切削油で濡れた床で足が滑った受け皿からあふれていた

落下・飛来

場面書き方の見本原因として書けること
棚棚の上段から材料の端材が落ちそうになった上段に端材を立てて置いていた
天井クレーン吊り荷の下を人が通りかかった合図者と通行者の声かけが無かった

切れ・こすれ、やけど

場面書き方の見本原因として書けること
金型清掃金型の清掃中に、金型の角で手を切りそうになった清掃用の道具が無く、布を手に持っていた
溶接溶接直後の部品に袖が触れそうになった残業時間で急いでいた

構内の車両

場面書き方の見本原因として書けること
出荷場パレットの荷が傾き、崩れそうになった荷の積み方の決まりが無い
通路の交差部フォークリフトと歩行者が角で出会い頭になった交差部にミラーが無い

上の表の「場面」は、そのまま種類の選択肢に使えます。自社の設備に合わせて10種類ほどに決め、毎回そこから選んでもらう形にすると、集計のときに手が止まりません。種類を自由記入にすると、「はさまれ」「挟まれ」「手をはさむ」が別のものとして数えられて、あとで泣きます。

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1件1行で書く欄の決め方

用紙に何を並べるか。この8つで足ります。

欄書き方集計に使うか
日付2029/09/03月ごとの件数
時刻08:40時間帯別
場所加工エリア、出荷場、倉庫、溶接エリア場所別
種類決めた10種類から選ぶ種類別
報告者名前使わない
何があったか30字程度。けがに至らなかった事実だけ使わない
原因思い当たることを1つ使わない
対策と、その状況未対応/対策中/対策済対策の状況別

「何があったか」を長く書かせないのがコツです。詳しく書けと言われた時点で、多くの人は出すのをやめます。1行に収まる長さなら、通りがかりに書けます。詳しい経緯が要る案件は、あとから担当者が聞き取ればよい話です。

原因の欄を掘り下げたいときは、なぜなぜ分析のやり方の手順を、月に1件だけ当てるくらいがちょうどよい分量です。

集計の4つの軸

集まった報告を、次の4つで数えます。

軸見えること打ち手の例
場所別どのエリアに危険が集まっているかそのエリアの通路と置き場を見直す
時間帯別いつ起きやすいか交替の前後、昼前、残業帯に作業の山が寄っていないか見る
種類別どの型の事故の芽が多いか多い種類に合わせて保護具や治具を決める
対策の状況別出しただけで止まっている件数未対応が積み上がると報告が止まる。ここを先に減らす

アプリの見本データでは、2029年9月の7件のうち、場所別で加工エリアが4件、種類別ではさまれ・巻き込まれが2件、対策の状況では未対応が3件でした。これは架空の工場のデータですが、実際の現場でも同じ読み方をします。加工エリアに件数が寄っているなら、今月直すのは加工エリアの1か所です。

4つの軸で数えたいだけなら、ヒヤリハットのアプリに1件1行で入れていけば、月を選ぶだけで件数が出ます。CSVで書き出して印刷もできるので、安全衛生委員会の資料にそのまま回せます。データは、ログインしないときはその端末のブラウザの中にだけ保存されます。事務所のパソコンと現場のタブレットで同じデータを見たいときだけ、無料のアカウントを登録してください。

報告が集まらないときに疑うこと

件数が月に2、3件で止まっている現場は、だいたい次のどれかです。

用紙が重い。 A4に原因分析まで書かせる書式だと、書く側は10分かかると身構えます。1行に削ってください。

出したあと、何も起きない。 これがいちばん効きます。翌月の朝礼で「先月は7件、加工エリアの置き場を直しました」と返すだけで、報告は増えます。返さないまま半年たつと、箱は空になります。

犯人探しに使われた記憶がある。 一度でも報告した人が叱られた現場では、もう出てきません。報告者の欄を任意にする、評価に使わないと文書で明言する、といった手当てが要ります。

そもそも「これはヒヤリハットか」が分からない。 けがに至らなかったが、一歩間違えばけがにつながったと思ったこと、と定義を短く配ってください。判断に迷ったら出す、でかまいません。

危険の予知を現場の全員でやる場面は、KY活動のやり方にまとめています。ヒヤリハットが「起きたことの記録」なのに対して、KY活動は「これから起きそうなことの読み合わせ」です。ヒヤリハットの集計で出た多い種類を、翌月のKY活動のテーマに使うと、2つがつながります。

法令はどこまで求めているか

ヒヤリハットそのものを社外に報告する定めはありません。労働安全衛生規則第97条の労働者死傷病報告は、労働者が労働災害等により「死亡し、又は休業したとき」に、遅滞なく所轄労働基準監督署長へ報告するものです。けがに至らなかった事例は、この報告の対象ではありません。

一方で、労働安全衛生法第28条の2第1項は、事業者に対して「建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等」を調査し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるよう努めなければならないと定めています。同項のただし書では、化学物質に係るもの以外の調査について、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る、としています。製造業は、この調査の対象に含まれます。

この調査はと呼ばれます。労働安全衛生規則第24条の11は、調査を行う時期として、建設物を設置・移転・変更・解体するとき、設備や原材料等を新規に採用または変更するとき、作業方法または作業手順を新規に採用または変更するときなどを挙げています。

ヒヤリハットの集計は、この調査の入口として使えます。同じ作業で同じ種類の報告が続いているなら、その作業を調べる順番を上げる根拠になるからです。法令の原文と適用の範囲は、自社の業種と作業に合わせて、所轄の労働基準監督署にも確かめてください。

設備そのものの異常を早く拾う仕組みは設備点検表の作り方、置き場と通路の乱れを減らす仕組みは5Sチェックの回し方にあります。転倒やつまずきの報告が多い現場では、のほうが先に効くこともあります。

AIに対策の下書きを作らせてみた

この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、アプリの見本データから1行を渡して、対策の下書きを作らせました。実際に渡した内容と、返ってきた文章です。

渡したもの:2029/09/03 08:40/加工エリア/はさまれ・巻き込まれ/金型交換中に、別の人が足踏みスイッチに触れそうになった/段取り替え中の表示をしていなかった

返ってきた対策案:段取り替え中は、足踏みスイッチに赤いカバーをかぶせ、機械の前に「段取り替え中・操作禁止」の札を掛ける。札は交換作業者が掛け、作業終了時に本人が外す。朝礼で、札が掛かっている機械には触れないことを周知する。

読める文章ではありますが、赤いカバーが自社の機械に付くのか、札を誰が管理するのかは、AIには分かりません。現場を見ている人が削って直す前提の、たたき台です。対策欄に空白が並ぶよりはましだ、くらいの受け止め方が妥当だと考えています。生成AIを製造現場の書類仕事にどう当てるかは、製造業でのAI活用にまとめました。

書式を自分たちで作れるようにする

ヒヤリハットの用紙は、どの工場でも少しずつ違います。場所の名前も、種類の分け方も、対策の状況の呼び方も、自社の言葉があるはずです。市販の書式に現場を合わせるより、自社の言葉のまま画面にしたほうが、書く側の手が止まりません。

このヒヤリハットのアプリは で作りました。日本語で指示を出して、画面と集計の形を決めていく作りです。製造業向けの Claude Code 研修は、生産管理・品質管理・製造技術など、作業標準書や不具合報告書、点検表を作っている人が対象で、全10時間(2時間×5回)のZoomライブ双方向で進みます。プログラミングの経験は問いません。人材開発支援助成金の対象になる研修ですが、支給は労働局の審査で決まります。受講は勤務時間内で、受講開始の1か月以上前から準備が要ります。

まとめ

  1. ヒヤリハットは、文章の報告書ではなく、1件1行で書く。日付・時刻・場所・種類・何があったか・原因・対策の状況の8欄で足りる
  2. 場所・時間帯・種類・対策の状況の4つで数え、いちばん多いところを月に1つ直す
  3. 報告が止まる原因は、用紙の重さ、返さないこと、犯人探しの記憶の3つ。返すことがいちばん効く
  4. けがに至らなかった事例に社外への報告の定めはない。ただし製造業の事業者には、労働安全衛生法第28条の2で作業行動等に起因する危険性等の調査と措置の努力義務がある
  5. 集計の結果は、リスクアセスメントで調べる作業を選ぶ根拠に使える

まずはヒヤリハットのアプリの見本データを触って、自分の工場の場所と種類に書き換えるところから試してみてください。そのうえで、点検表や不具合報告書まで自分たちの手で形にしたくなったら、製造業向けの Claude Code 研修が次の一歩になります。