10の書類仕事の依頼文と下書き
ここからは、書類ごとの依頼文と下書きの要点を並べます。依頼文はどれも短い日本語で、特別な書き方はしていません。やり取りは各書類1回ずつで、頼み直しはしていません。
1. 朝礼の報告(ダッシュボード)
製造業アプリのダッシュボード。期限を過ぎた対策2件、9月の不良率0.8%、ヒヤリハット7件などが並ぶ(見本データ)
*画面は exbk.jp の製造業アプリのダッシュボードです。数字はすべて見本データです。*
> 依頼:次の数字をもとに、朝礼で3分で話すメモを作ってください。期限を過ぎた対策2件、9月の不良率0.8%、9月のヒヤリハット7件(うち未対策5件)、定期自主検査が30日以内のもの2件、一人で任せられる人が足りない作業2つ。
下書きは、期限切れの対策を最初に置き、ヒヤリハット、検査の期限、不良率の順に並べ替えてきました。「不良率は0.8%で落ち着いています」のように、数字を話し言葉に直すところは自然でした。
人が直すべきなのは、下書きが「担当者を決めて今週中に対応します」と書いていた箇所です。誰がいつまでに何をするかは、朝礼の前に工場長が決めて書き込む必要があります。
2. なぜなぜ分析
> 依頼:現象は「9月5日の午後に加工したブラケット A-100 の取付穴が、基準面から最大0.4mmずれていた(規格±0.2mm)。出荷前検査で48個中12個を発見」です。なぜなぜ分析の「なぜ1」の候補を挙げてください。
候補は、治具に部品が浮いた状態でセットされた、ドリルや基準ピンの摩耗、材料の寸法のばらつき、作業者の手順の違い、などが出ました。考え漏れを減らす道具としては役に立ちます。
ただし、どれが本当の理由かはAIには決められません。見本の分析では、現物を調べて「治具の当たり面に切粉がたまり、部品が浮いていた」ことが確かめられています。候補の中から、確かめられたものだけを残すのが人の仕事です。書き方の細かい決まりは
なぜなぜ分析のやり方にまとめています。
3. QC工程表
> 依頼:穴あけ工程の穴位置の測定頻度は「初物のみ」です。上の穴位置ずれを受けて、QC工程表のこの行の見直し案を書いてください。規格は「基準面から25.0±0.2mm」です。
下書きは、頻度を「初物と1時間ごとに1個」に改め、異常時の処置に「停止して班長へ連絡し、前回の確認以降の品を全数測定」を足す案でした。見本の工程表の改訂予定と同じ方向です。
ここで気をつけたいのは、規格値を渡さずに頼むと、それらしい数字をAIが書きかねない点です。規格や基準は図面と取引先との取り決めで確かめ、AIには決めさせません。表の項目の立て方は
QC工程表の書き方で詳しく扱っています。
4. スキルマップ
> 依頼:次の表は、作業者6人と8つの作業の力量(0〜4)です。レベル3以上の人が必要人数に足りない作業と、育成の候補を挙げてください。
表を読ませると、溶接(3人必要で2人)と段取り替え(3人必要で2人)の2つが足りない、と正しく数えました。育成の候補には、それぞれレベル2の人を挙げてきました。
候補の選び方は筋が通っていますが、本人の希望、シフト、ほかの作業との兼ね合いは表に載っていません。誰を育てるかは班長と本人で決めます。表の作り方は
スキルマップの作り方を見てください。
5. 作業標準書
> 依頼:次の走り書きを、作業標準書の「手順、急所、急所の理由」の表にしてください。「治具を掃除、部品セットしてクランプ、浮いてないか見る、下穴、リーマ、止まってから外す」
手順を6行に分け、急所と理由を書き分けた表が出てきました。「切粉があると部品が浮き、穴位置がずれる」のような理由の文は、そのまま使える水準です。
一方で、各手順の秒数は空欄でした。浮きを確かめる基準(見本では0.05mmのすきまゲージが入らないこと)も、走り書きに無いので出てきません。保護具も、回転する刃物を使う作業で何を着け、何を着けないかは、現場の決まりで人が書き込みます。
6. 5Sチェックシート
> 依頼:加工エリアの今月の5S点検は69.3点(前回62.7点)。整理67%、整頓80%、清掃60%、清潔60%、しつけ80%でした。講評と次回までの課題を3行で書いてください。
下書きは、前回より上がったことを先に書き、清掃と清潔が低いことを課題に挙げていました。点数から書ける範囲では妥当な講評です。
ただ、AIは職場を見ていません。講評に具体的な場所や物を書くなら、点検した人が見たことを足します。
の点数そのものも、現場で人が付けた値です。
7. 設備の日常点検表
> 依頼:エアコンプレッサー1号機の日常点検で、運転開始時に異音があり「△(要観察)」を付けました。点検表の「異常と処置」欄の文を書いてください。使い続けてよいかどうかは書かないでください。
下書きは、いつ、どの点検で、何に気づいたかを事実として書き、処置の欄に「保全担当に連絡、次回の点検で再確認」と分けて書いてきました。
依頼文で「使い続けてよいかは書かないで」と指示したのは、ここが安全の判断だからです。止めるか、使うかは、保全の責任者が設備を見て決めます。
8. 不具合報告書
> 依頼:次のメモを不具合報告書の文にしてください。「9/11 10:20 カバーB-200 プレス曲げ、200個中6個打痕。金型の上の切粉をはさんで曲げた。6個は研磨で手直し。金型の掃除は段取り替えのときだけ」
発生状況、暫定対策、原因、恒久対策の案に分けた文面が出てきました。恒久対策の案として「作業中の金型清掃の頻度を作業標準書に追加」が挙がり、見本の報告書の対策と同じ方向でした。
人が確かめるべきは、数量と原因です。メモの数字を転記ミスなく写しているか、「清掃が段取り替えのときだけ」が本当に原因かは、報告者と品質担当が現物で確かめます。
9. 生産日報
> 依頼:9月18日の日勤。ブラケット A-100 は計画400・生産408・不良1・停止15分(段取り替え)、カバー B-200 は計画300・生産300・不良1・停止15分(材料待ち)。不良率と達成率を出し、日報のコメントを書いてください。
不良率は0.3%で、アプリの表示と同じでした。ところが達成率は、下書きでは生産数を計画数で割って101.1%としたのに対し、アプリは良品数で割って100.9%と表示します。
どちらが間違いというより、
計算の定義を渡していなかったのが原因です。社内で「達成率は良品数で数える」と決めているなら、それを依頼文に書きます。数字を扱わせるときは、定義を先に渡すことが欠かせません。
10. ヒヤリハット
> 依頼:9月のヒヤリハット7件の一覧です。種類別と場所別に件数をまとめ、対策が済んでいないものに対策の案を出してください。
加工エリアが4件で最も多く、種類ではプレスで指が金型に近づいた件など、はさまれ・巻き込まれが2件で最多、と正しく集計しました。対策の案も、未対応の3件それぞれに出てきました。
ただ、案のどれをやるかは安全の担当者と現場で決めます。特に、はさまれ・巻き込まれのように大けがにつながる種類は、AIの案を読んで終わりにせず、設備と作業を見直す話として扱います。
AIに任せないこと:品質、安全、機密
10種の下書きを見比べると、AIに渡さない線は3本に整理できます。
| 線 | 具体的に | なぜ |
|---|---|---|
| 品質の合否 | 合格か不合格か、出荷してよいか、特別採用にするか | 責任者が現物と規格を見て決めることで、AIは現物を見ていない |
| 安全の判断 | 設備を使い続けるか、作業を止めるか、どの安全対策をやるか | 判断を誤ると人がけがをする |
| 機密 | 取引先の図面、仕様書、品質データ、取引先名 | 取引先との約束で持ち出しが禁じられていることがある |
AIは、渡していない情報を、もっともらしい文でうめてしまうことがあります。これを
(事実でないことを、それらしく書くこと)と呼びます。今回の下書きでも、規格値や原因の欄は、情報を渡さなければ推測になる場所でした。数字と原因は、必ず人が元の記録と照らし合わせます。
図面と取引先の情報については、この記事の下書きでは、品目名も数値もすべて架空の見本だけを使いました。社内で使うときも、品番を社内の記号に置き換える、取引先名を書かない、といった入れ方の決まりを先に作っておくと安心です。
始める前に決めておくこと
いきなり10種を全部やる必要はありません。次の順で進めると、つまずきが少なくなります。
1.
入れてよい情報を決める:図面、仕様書、取引先名、品質データのうち、何を入れないかを紙1枚に書く
2.
書類を1つ選ぶ:毎週書いていて、文章に時間がかかっているもの(不具合報告書や作業標準書が向いています)
3.
見本データで試す:実データの前に、架空の数字で依頼文を作って下書きの質を見る
4.
直す人を決める:下書きを誰が確かめ、誰が承認するかを、いまの書類の流れのまま決める
研修のページでも、第1回の内容として、図面や取引先の仕様、品質データを入力しない書き方と、自部署で守る利用ルールを決めることが挙げられています。道具を作る前に線を引く、という順番です。
よくある失敗
10種の下書きを見て、つまずきやすいと考えた点を挙げます。
-
定義を渡さずに計算させる:生産日報の達成率のように、社内の計算の決まりとずれる。定義は依頼文に書く
-
原因の欄をAIの候補のまま残す:なぜなぜ分析や不具合報告書で、確かめていない理由が報告書に載ってしまう
-
足りない数字を埋めさせる:規格値、秒数、測定の基準は、渡さなければ出てこないか推測になる
-
書類ごとに毎回依頼文を考える:同じ書類なら依頼文を決めておくか、書類の形そのものをアプリにしてしまうほうが早い
最後の点は、この記事で使った製造業アプリの考え方でもあります。
不具合報告書や
作業標準書のアプリは、欄があらかじめ分かれているので、書く人が発生状況と原因を混ぜにくくなっています。AIに下書きを頼むときも、この欄の並びに沿って頼めば、出てくる文も欄ごとに分かれます。
書類の形は工場ごとに違います。自分の工場の欄の並びで道具を作れるようになりたい方には、
製造業向けの Claude Code 研修があります。
に日本語で指示し、作業標準書、不具合報告書、QC工程表、設備の日常点検表などを題材に、担当者が自分でアプリを作る10時間の内容です。
まとめ
- 中小の工場でAIを使い始めるなら、設備より先に書類仕事から。紙やExcelの内容を日本語で渡せば、今日から試せる
- 下書き、表の整理、件数の集計と抜けの指摘は十分に使えた。規格値、秒数、現物の状態は、渡さなければ出てこない
- 計算させるときは定義を先に渡す。生産日報では達成率の数え方がずれた
- 品質の合否、安全の判断はAIに決めさせない。図面と取引先の情報は入れない
- 書類の形は、見本データ入りの
製造業アプリで確かめられる
どの書類から手を付けるか決めかねているなら、まずは毎週いちばん時間のかかっている書類を1つ選んでください。その書類を担当者が自分でアプリにするところまで進めたい場合は、
製造業向けの Claude Code 研修で、自部署の書類を題材に練習できます。