1. 見下す・決めつける言葉
本人の行動に、書いた人の評価を貼りつけてしまう言葉です。
| 避けたい言葉 | 言い換えの見本 | 避けたい理由 |
|---|---|---|
| わがまま | 「魚ではなく卵が食べたい」と希望された | 本人の希望が、評価の言葉で片付いてしまう |
| 問題行動/迷惑行為 | 夕食後、隣の席の方のお皿に手を伸ばされた。その前に「おなかがすいた」と話されていた | 誰にとっての問題かが書かれず、行動の中身と理由が消える |
| 暴言 | 声をかけた際、「触るな」と大きな声で話された | 実際の言葉と、その直前に何があったかが残らない |
| 暴力 | 着替えの介助中、職員の腕を右手で払われた | 誰に、どんな動作があったかが伝わらない |
| 徘徊 | 21時から30分ほど、居室と玄関の間を歩かれた。「家に帰らないと」と話された | 本人の目的や理由を、ひとつの言葉でくくってしまう |
| おりこう、いい子 | 名前は「◯◯さん」と書き、行動はそのまま書く | 大人である本人を子ども扱いしているように読める |
「暴言」「暴力」は、書かないという意味ではありません。何が起きたかは必ず書きます。書くのは、ラベルではなく中身のほうです。「職員の腕を右手で払われた」と書いてあれば、その前に何があったのかを次の人が考えられますが、「暴力あり」では考える材料がありません。
けがや事故につながった場面では、記録とは別に報告書が要ります。書き分けは
介護事故報告書の書き方と
ヒヤリハットの事例と書き方にまとめました。
2. 本人の意思が消える言葉
介助する側が主語になって、本人が何を選んだのかが見えなくなる言葉です。
| 避けたい言葉 | 言い換えの見本 | 避けたい理由 |
|---|---|---|
| させた、させる | 歩行を介助した/体操に参加していただいた | 本人が自分で選んだことが伝わらず、職員が強いたように読める |
| 拒否 | 「今は入りたくない」と話された | 言葉と理由が消え、次にどう声をかければよいかがわからない |
| してもらった(指示に従った、の意味で) | 声をかけると、自分で靴を履かれた | 本人ができたことのほうが伝わらなくなる |
| 誘導した | トイレの場所を伝え、一緒に歩いた | 職員が引っぱったように読め、本人が歩いたことが消える |
「拒否」は、介護記録でいちばん多く出てくる言葉のひとつだと思います。この言葉の困るところは、断られた事実は残るのに、断った理由が残らない点です。
> 避けたい書き方:入浴を拒否されたため、様子見とした。
> 言い換えた書き方:10:30、入浴に声をかけると「今日は疲れたから入りたくない」と話された。11:00に再度声をかけたが同じ返事のため、清拭に変更した。
上の1行では、明日の担当者は同じ時間に同じ声かけをします。下の3行があれば、午後に声をかけてみる、という次の手が出てきます。
3. あいまいで中身が伝わらない言葉
このグループが、実務でいちばん厄介です。書いた人は何かを確かめているのに、確かめた中身だけが抜け落ちています。
| 避けたい言葉 | 言い換えの見本 | 避けたい理由 |
|---|---|---|
| 特変なし、著変なし、異常なし、変わりなし | 食事全量、表情穏やか、体温36.4℃ | 何を確かめたかが残らず、あとで変化を比べられない |
| 様子見、経過観察 | 右膝の痛みを、翌朝の起床時まで、歩く様子と本人の訴えで見る | 何を、いつまで、どう見るかが決まっていない |
| いつも通り、普段通り | 朝食は主食全量。7時に自分で起き上がられた | 読む人は「いつも」を知らない |
| 大丈夫 | 立ち上がりで膝折れなく、「痛くない」と話された | 何を確かめて大丈夫としたのかがわからない |
| 不穏 | 眉間にしわを寄せ、廊下を行ったり来たりされた。「どこへ行けばいいの」と話された | 表情、言葉、動作のどれを見たのかが伝わらない |
| 落ち着かない様子 | 5分ほどの間に3回、椅子から立ち上がられた | 見たことではなく、見たことから考えた結果になっている |
「特変なし」を書き直す手順
「特変なし」は、言い換えを教わっても手が止まりやすい言葉です。理由は、書くことがないからではありません。
確かめたことが多すぎて、言葉にしないまま2文字にまとめている場合が多いのです。
順番はこうなります。
1. その人を見たとき、何を確かめたかを思い出す(食事、表情、顔色、体温、痛みの訴え)
2. そのうち、数字で書けるものを数字にする(主食全量、体温36.4℃)
3. 数字にできないものは、見たままを書く(表情穏やか、顔色は普段と同じ)
4. 確かめていないことは書かない
4つめが大事です。体温を測っていないのに「発熱なし」とは書きません。確かめたことだけを書くと、結果的に「特変なし」より短くなる日もあります。それでかまいません。
「様子見」は、見る中身を決めてから書く
「様子見」が困るのは、次の勤務の人が何を見ればいいかわからない点です。書くときに決めるのは3つあります。何を見るか、いつまで見るか、どうなったら報告するか。
> 避けたい書き方:昼食時にむせあり。様子見。
> 言い換えた書き方:12:20、汁物を飲んだ際に2回むせた。その後は咳込みなし。夕食まで、むせの有無と食事の飲み込みを見る。むせが続く場合は看護師に報告する。
4. 診断のない医療用語・俗語
診断を受けていないのに、病名や症状名のような言葉を使ってしまう例です。
| 避けたい言葉 | 言い換えの見本 | 避けたい理由 |
|---|---|---|
| 脱水気味 | 午前の水分はお茶100ml。唇が乾いている | 見たことと量を書けば、看護師が判断できる |
| 認知が入っている | 食事の直後に「ごはんはまだ?」と話された | 何を見てそう書いたのかが残らない |
| うつっぽい | 2日続けてレクへの誘いに「行かない」と話され、居室で過ごされた | 医学的な見立ては、記録を書く職員の役目ではない |
| 誤嚥した | 汁物を飲んだ際に2回むせ、その後10秒ほど咳込みがあった | 実際に何が起きたかは、その場で見ただけでは断定できない |
体の変化に気づいたときの書き方は、いつも同じです。見たこと、数値、本人の言葉を書いて、誰に報告したかを残す。判断は医療職がします。
5. 事業所の中だけの略語
職員同士では通じても、家族やほかの事業所の人には通じない言葉です。
| 避けたい言葉 | 言い換えの見本 | 避けたい理由 |
|---|---|---|
| Pトイレ | ポータブルトイレ | 読む人の範囲が広い記録では通じない |
| W/C | 車いす | 同じ |
| 臥床、離床 | 横になっている、ベッドから起き上がる | 家族が読む記録なら、ふだんの言葉のほうが届く |
| ◯◯様Ns報告済 | 看護師の◯◯に報告した | 略語と敬称が混ざり、誰が誰に報告したか読み取りにくい |
略語をどこまで使うかは、事業所ごとに決めておくのがいちばん早い解決です。フェイスシートや申し送りなど、家族が目にする書類ほど開いておく、という線引きでも十分に機能します。書類ごとの読み手の違いは
フェイスシートの書き方でも触れました。
言葉の点検を、書式の側に持たせる
ここまで一覧を見てきて、たぶん同じことを考えたはずです。全部覚えるのは無理だ、と。
そのとおりで、この手の一覧は研修で配っても1か月で忘れられます。忘れても困らないようにするには、書いているその瞬間に画面が教えてくれる形にするしかありません。
介護記録アプリの入力画面。見本データで「入浴を拒否されたため、様子見とした。」と入力すると、下に「拒否」「様子見」の書き直しの目安が表示されている
上の画像は、
介護記録のアプリに見本データを入れた画面です。「入浴を拒否されたため、様子見とした。」と書くと、下の「言葉の点検」に2件出ます。
| 出た言葉 | 画面に出る書き直しの目安 |
|---|---|
| 拒否 | 本人の言葉や理由を書く(例:「今は入りたくない」と話された) |
| 様子見 | 何を、いつまで、どのように見るかを書く |
と名前のつくものはたくさんありますが、点検の中身は製品ごとに違います。このアプリの点検は、一覧の言葉が文の中に
含まれているかどうかだけを見ています。文の意味は読みません。だから「拒否はなく、自分から入浴された」と書いても「拒否」の目安が出ます。
この作りは、わざとこうしてあります。意味まで判断する仕組みにすると、判断を間違えたときに気づけません。含まれているかどうかだけなら、出た理由が誰にでもわかります。表示は読み直すきっかけとして使って、書き直すかどうかは書いた人が決めてください。
点検の一覧に入っていない言葉もあります。この記事のグループ4と5、つまり「脱水気味」や「Pトイレ」は入っていません。事業所で決めた言葉を足したいなら、書式そのものを自分たちで作るほうが早い、というのが
Claude Code 研修を始めた理由です。研修は Zoom のライブ形式で、介護記録を書くアプリを作る回、事故報告書とヒヤリハット報告を作る回、送迎表とシフト表を作る回が並んでいます。対象は介護職員、生活相談員、介護支援専門員、事務員など、こうした書類を作っている方です。
生成AIに言い換えの下書きを作らせるとどうなるか
言い換えの作業そのものを生成AIに任せられないか、と考える人は多いはずです。この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、見本データで下書きを作らせてみました。
入れた文はこれだけです。
> 入浴を拒否されたため、様子見とした。
返ってきた下書きが、次の文です。
> 10:30、入浴に声をかけると「今日は疲れたから入りたくない」と話された。11:00に再度声をかけたが同じ返事のため、清拭に変更した。夕方に改めて声をかける。
文としては読めます。でも、この下書きの中で元の文に書いてあった事実は、入浴を断られたことだけです。時刻も、本人が何と言ったかも、清拭に変えたことも、AIが埋めた部分です。書いた職員に確かめないと、事実かどうかわかりません。
つまり生成AIにできるのは、
言い換えの型を出すことまでです。中身を持っているのは、その場にいた職員だけです。実際に使うなら、順番を逆にします。職員が時刻と量と本人の言葉をメモしておき、それを並べ替えて文にするところをAIに任せる。この順番なら、AIが事実を作る余地がありません。
AIへの指示文(
)も、「書けていないことは補わず、足りない項目は質問で返して」と一行足しておくと、埋められる回数が減ります。介護の場面でのAIの使いどころと注意点は
介護現場でのAI活用にまとめました。
なお、利用者の氏名や病名が入ったままの記録を、外部の生成AIサービスにそのまま貼り付けるのは避けてください。研修の第1回が「個人情報を扱う現場での利用手順」から始まるのも、ここが先だからです。
よくある失敗
言葉の見直しを事業所で始めたときに、つまずきやすいところを3つ挙げます。
一覧を配って終わりにする。 配った紙は、翌月には誰も見ていません。一覧は、記録を書く画面か、記録用紙の欄外に置いてはじめて機能します。
書き直しを個人の指摘にしてしまう。 「またNGワードが入っていました」と個別に伝える運用は、記録が短くなるだけで終わります。「特変なし」が減っても、代わりに空欄が増えたら意味がありません。言葉が出てきたら、その場面を書いた人に聞いて、確かめた中身を一緒に足すほうが早いです。
全部を一度に変えようとする。 5つのグループを同時に禁止すると、書く手が止まります。最初の1か月はグループ3(特変なし、様子見)だけ、と決めるくらいでちょうどよいと思います。このグループを直すと、記録が比べられるようになるので、効果が見えやすいところでもあります。
まとめ
- 見直したい言葉は5つのグループに分かれるが、言い換えのやり方はどれも同じで、まとめの言葉を外して見たこと・聞いた言葉・時刻と量を書く
- 法律で一覧が決まっているわけではない。判断の軸は、その場にいなかった人に場面が伝わるかどうか
- 高齢者虐待防止法は、心理的虐待にあたる行為として著しい暴言や著しく拒絶的な対応を挙げている。記録の言葉づかいは、関わり方とつながっている
- 「特変なし」は、確かめたことを数字と見たままに置き換える。「様子見」は、何を、いつまで、どうなったら報告するかを決めてから書く
- 一覧を覚えるより、書いている画面が教えてくれる形にするほうが続く
場面ごとの例文は
介護記録の書き方と
介護記録の例文集にまとめてあります。書式そのものを自分たちで作り変えたくなったときは、
Claude Code 研修をのぞいてみてください。介護記録のアプリも
で作ったもので、研修では同じ作り方を、自分の事業所の書式で試していただいています。