介護職員やフロアリーダー向けに、ヒヤリハットの場面別の見本と、集めた報告を再発防止に使う方法をまとめました。

先に答えを書くと、ヒヤリハットは1件ずつ読むより、1か月分を場所・時間帯・種類で数えたほうが、次の対策を決めやすくなります。

この記事の事例と数字は、すべて架空の見本です。実在の事業所や利用者の話ではありません。

先に結論:1か月分を3つの切り口で数える

ヒヤリハットの報告用紙は、たまるほど読まれなくなります。20枚の用紙を委員会で1枚ずつ読み上げても、どこに手を打てばよいかは見えにくいものです。

そこで、1か月分を次の3つで数えます。

切り口数え方見えること
場所居室、トイレ、食堂、浴室、廊下などどこの環境を直すか
時間帯3時間ごとなど、決まった幅で区切るどの勤務帯の人手や動きを見直すか
種類転倒、転落、誤嚥・窒息、異食、誤薬などどの手順を見直すか

数えるのは紙でもできます。exbk.jp のヒヤリハット報告のアプリ(無料・登録なしで使える)は、報告を書くと、その月の件数を場所別・時間帯別・種類別に自動で数えて棒グラフにします。集計は印刷でき、CSV(表計算ソフトで開ける形式)でも書き出せます。

報告を書く、集計を作る、委員会用に印刷する。この一連の書類仕事を、職員が自分でアプリにできるようになる研修もあります。内容は介護事業所向けの Claude Code 研修で紹介しています。

場面別のヒヤリハット事例(見本)

ここからは場面ごとに、ありがちなヒヤリハットと、報告に書く対策の見本を並べます。どれも架空の見本です。

居室:起き上がり・立ち上がり・ベッドまわり

何があったか(見本)時刻種類対策の見本
ベッドから一人で立ち上がろうとして、ふらついた。職員が支えて転倒はなし。5:50転倒早朝の巡回を5時半にも行う
車いすからベッドへ一人で移ろうとされた。20:30転倒就寝前に移乗の声かけをする時間を決める
ベッド柵の間から足が出ていた。6:20転落柵のすき間をふさぐカバーを付ける

居室のヒヤリハットは、起きる前と寝る前に集まりやすい場面です。職員が少ない時間帯と重なるので、時刻を必ず書いてもらうと、あとで集計したときに役立ちます。

トイレ:立ち上がりと衣服の上げ下ろし

何があったか(見本)時刻種類対策の見本
歩行器を使わずに手すりだけで立ち上がり、膝が折れかけた。15:30転倒トイレ内の歩行器の置き場所を決めて表示する
ズボンを上げるときにバランスを崩しかけた。9:30転倒立っている間は職員が横に付く

食堂:食事と配薬

何があったか(見本)時刻種類対策の見本
汁物でむせた。すぐに治まった。12:20誤嚥・窒息汁物のとろみの量を確認する
朝の配薬で、隣の席の利用者の薬を置きかけた。名前を読み上げたときに気づいた。8:10誤薬、与薬もれ等配薬時は名前と日付を声に出して確認する
おしぼりを口に入れようとされた。12:40異食食事中はおしぼりを手の届かない位置に置く

食堂は、転倒以外の種類が集まりやすい場所です。むせたあとの体の状態をどう見るかは、看護師や医師が判断することです。報告には、見たことと、誰に伝えたかを書きます。

浴室・廊下:床と足元

何があったか(見本)時刻種類対策の見本
脱衣室の床が濡れていて、足を滑らせかけた。10:15転倒入浴ごとに床を拭く担当を決める
夜間、靴を履かずに廊下を歩いておられ、滑りかけた。22:40転倒夜間は滑り止め付きの靴下を使う

送迎・玄関まわり

何があったか(見本)時刻種類対策の見本
送迎車の乗り降りのとき、車いすのブレーキがかかっていなかった。16:05その他乗り降りの前にブレーキの確認を声に出す
送迎車から降りて玄関に向かう途中、段差につまずきかけた。8:35転倒段差に目立つ色のテープを貼る

送迎のヒヤリハットは、運転や添乗の担当者が書くことになります。フロアの職員ではない人も報告を出せるように、用紙やアプリの置き場所を決めておきます。

毎月のヒヤリハットの集計を、職員が自分でアプリにできるようになりませんか?
介護の現場向け Claude Code 研修
研修の内容を見る

報告の書き方:よくない例と書き直した例

集計が役に立つかどうかは、1件ずつの報告の中身で決まります。よくある書き方と、書き直した見本を並べます。

よくない例書き直した例直したところ
トイレでふらつき。気をつける。15:30、トイレで歩行器を使わず手すりだけで立ち上がり、膝が折れかけた。職員が腰を支えた。時刻、何をしようとしていたか、職員が何をしたかを書いた
誤薬しそうになった。8:10、朝の配薬で隣の席の利用者の薬を置きかけた。名前を読み上げたときに気づいた。何に気づいて止められたかを書いた
不穏で廊下を歩き回る。22:40、靴を履かずに廊下を歩いておられ、床で滑りかけた。「不穏」をやめ、見た様子を書いた

対策の欄も同じです。

よくない対策書き直した対策
見守りを強化する起床時の声かけを5時半に早める
注意して配薬する配薬時は名前と日付を声に出して確認する
床に気をつける入浴ごとに床を拭く担当を決める

「強化する」「注意する」は、誰がいつ何をするのかが書かれていないので、翌月に効いたかどうかを確かめられません。事実と気づきを分けて書く考え方は、介護記録の書き方と同じです。

集計すると見える傾向:見本データ12件の場合

ここからは、ヒヤリハット報告のアプリに入っている見本データ(架空の事業所の2029年9月分、12件)を例に、集計の読み方を示します。

ヒヤリハット報告アプリの集計画面。見本データ12件を場所別・時間帯別・種類別に数えた棒グラフ
ヒヤリハット報告アプリの集計画面。見本データ12件を場所別・時間帯別・種類別に数えた棒グラフ

*画面はすべて架空の見本データです。*

種類別:転倒が半分を超える

種類件数
転倒7
転落1
誤嚥・窒息1
異食1
誤薬、与薬もれ等1
その他1

12件のうち7件が転倒です。ここまでは多くの事業所で予想がつくはずで、これだけでは「転倒に気をつけよう」で話が終わってしまいます。種類は、場所や時間帯と組み合わせて初めて使える切り口です。

時間帯別:朝と昼に山がある

時間帯件数
0〜6時1
6〜9時3
9〜12時1
12〜15時3
15〜18時2
18〜21時1
21〜24時1

6〜9時と12〜15時が3件ずつです。6〜9時は起床、配薬、送迎の到着が重なる時間帯でした。12〜15時の3件のうち2件は食堂での食事中です。

この見本では、朝の3件がすべて違う場所で起きています(居室、食堂、玄関まわり)。つまり場所を直すより、朝の人の動きを見直すほうが先だと読めます。

場所別:食堂が3件、居室が合わせて3件

場所件数
食堂等共用部3
居室(個室)2
居室(多床室)1
トイレ、廊下、浴室・脱衣室、機能訓練室、施設敷地内の建物外、敷地外各1

食堂の3件は、誤嚥・窒息、誤薬、異食と、種類がばらばらです。食堂は転倒よりも、食べる、飲む、薬を渡すといった手順の場面として見直すのがよさそうです。

集計にない切り口:利用者ごとに並べる

アプリの集計は場所・時間帯・種類の3つです。利用者ごとの件数は出ません。CSVで書き出し、表計算ソフトで利用者の列を並べ替えると、別の偏りが見えます。

見本の9月は、12件のうち4件が同じ利用者(見本 ウメさん)でした。

日付時刻場所何があったか
9/25:50居室(個室)ベッドから一人で立ち上がろうとして、ふらついた
9/822:40廊下靴を履かずに廊下を歩いておられ、滑りかけた
9/1312:40食堂おしぼりを口に入れようとされた
9/1520:30居室(個室)車いすからベッドへ一人で移ろうとされた

4件のうち3件は、早朝か夜に一人で動こうとした場面です。場所別・時間帯別の集計では、この偏りは見えませんでした。対策を場所ごとに3つ立てるより、この方の起床と就寝の前後の関わり方を、ケアプランの見直しの場で話し合うほうが早いかもしれません。

ここが、集計を1つの画面で済ませないほうがよい理由です。3つの切り口で当たりをつけ、気になったところは報告の一覧に戻って読みます。

集計を再発防止につなげる手順

1. 月末に集計を印刷して委員会に出す

事故防止の委員会や職員会議で、集計の紙を1枚配ります。報告を全部読み上げるより、まず棒グラフを見て「どこが多いか」を話すほうが短く済みます。話し合った内容は、介護アプリの委員会の議事録にも残せます。

2. 多かったところを1つだけ選ぶ

全部に対策を立てようとすると、どれも中途半端になります。見本の9月なら「朝6〜9時の動き」か「見本 ウメさんの起床・就寝前後」のどちらかに絞ります。

3. なぜ起きたかを掘り下げる

選んだ1つについて、(「なぜ」を何度か重ねて、手を打てる原因まで下りる方法)で原因を探ります。進め方はなぜなぜ分析のやり方にまとめています。

4. 対策を「誰が・いつ・何を」で書き、翌月の集計で確かめる

翌月の集計で、同じ場所や時間帯の件数が減ったかを見ます。件数が減っていても、報告が出なくなっただけのこともあるので、報告の総数も一緒に見ます。

介護の書類仕事で集計表や報告の書式を扱うことが多いなら、それを職員が自分で作れるようになる方法もあります。exbk.jp の介護アプリは、どれも (日本語で指示すると、アプリの仕組みを書いてくれる道具)で作りました。事業所の区分や時間帯の分け方に合わせた集計表を自分で作る方法は、介護事業所向けの Claude Code 研修の第3回で事故報告書・ヒヤリハット報告を題材に扱っています。

報告が集まらないときに見直すこと

集計は、報告が出てこないと始まりません。報告が出てこない理由として考えられるものと、見直す点を並べます。

出てこない理由見直す点
書くのに時間がかかる場所と種類は選ぶだけにし、何があったかは1〜2行でよいと決める
書くと責められる気がする報告の数を個人の評価に使わないと、委員会ではっきり伝える
出しても何も変わらない集計と、そこから決めた対策を掲示する
用紙が手元にないフロアのタブレットやスマホからでも書けるようにする

ヒヤリハット報告のアプリは、スマホやタブレットで開くと「+ ヒヤリハットを書く」のボタンが集計より先に出て、1件を縦に書く画面になります。入力した内容はその場で保存されます。フロアで立ったまま書ける作りにしたのは、この「用紙が手元にない」を減らすためです。

ヒヤリハットと事故報告の境目

ヒヤリハットのつもりで書いた出来事が、あとから事故として扱うべきものだった、ということもあります。転倒しかけたのではなく実際に転倒した場合や、けがが見つかった場合は、事故報告書の手順に移ります。

どの事故を市町村に報告するか、第1報をいつまでに出すかは、介護の事故報告書の書き方にまとめています。この記事では、その範囲には踏み込みません。

まとめ

  • ヒヤリハットは、1か月分を場所・時間帯・種類で数えると、どこに手を打つかを決めやすくなる
  • 見本の12件では、転倒が7件、6〜9時と12〜15時が3件ずつで、1人の利用者に4件が集まっていた
  • 3つの集計に出ない偏りもあるので、気になったら報告の一覧やCSVに戻って読む
  • 報告の「何があったか」は見たとおりに、対策は誰がいつ何をするかまで書く
  • 対策は1つに絞り、翌月の集計で件数と報告の総数を確かめる

まずはヒヤリハット報告のアプリに入っている見本データで、集計の画面を眺めてみてください。介護の現場でAIを書類仕事に使う例は介護のAI活用にまとめています。自分の事業所の書式に合わせた報告や集計の仕組みを職員の手で作りたい場合は、介護事業所向けの Claude Code 研修で、その作り方を5回に分けて学べます。