10の書類仕事でAIに下書きを作らせた結果
ここからが本題です。依頼文の要点、出てきた下書きの要点、人が直すべき点を、アプリの10種の順に並べます。どれも、この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、見本データで下書きを作らせた結果です。
| 書類仕事 | 渡した見本データと依頼の要点 | 出てきた下書きの要点 | 人が直すべき点 |
|---|---|---|---|
| ダッシュボード | 感染対策委員会が開催の目安を4日過ぎている、今月のヒヤリハット12件、事故防止の研修があと1回。朝礼で読む3行の連絡にして | 「委員会の日程を今週中に決めます」「ヒヤリハットは今月12件」「研修はあと1回」の3行 | 何から手を付けるかの順番はAIが決めた並び。管理者が優先順位を付け直す |
| 利用者台帳 | 申し送りの「移乗のときは右腕を持たないでください」を、台帳の注意事項欄に入る1行にして | 「移乗時は右腕を持たない(前腕打撲のため)」 | いつまで続けるかが抜けている。看護職員が確かめて「腫れが引くまで」などを足す |
| 介護記録 | 「入浴を拒否されたため、様子見とした。」を、事実・気づき・対応に分けて書き直して | 時刻、本人の言葉、再度の声かけの時刻を空欄にした3欄の下書き | 空欄は職員が見たことで埋める。空欄にせよと指示しないと、AIが言葉を作りかねない |
| 事故報告書 | 転倒で右前腕を打撲。前日の夜に一人で移乗しようとしたヒヤリハットあり。原因分析の観点を挙げて | 本人の状態、環境、職員の関わりの3つに分けた観点の候補と、確かめる質問 | 原因を決めるのは人。候補を書き写すと、推測が事実のように報告書に残る |
| ヒヤリハット | 9月の12件の場所別・時間帯別・種類別の件数。委員会の資料に載せる傾向の文章にして | 「転倒が7件で最も多い。6〜9時と12〜15時が各3件」 | 12件では傾向とまで言い切れない、と一言足す。対策は委員会で決める |
| 送迎表 | 2号車が点検のため、送りの出発を16:10にする。家族への連絡文にして | 出発が遅れる理由と、おおよその到着の遅れを伝える短い文 | 2号車の利用者の家族だけに送る。到着時刻は送迎担当が道順から確かめて入れる |
| 勤務シフト表 | 架空の見本で、翌月分の希望休の締め切りを職員に知らせる文にして | 締め切り日、出し方、希望が重なったときの扱いを入れたお知らせ | 重なったときの決め方は事業所の決まりに合わせて書き換える。人員配置の確認は人 |
| 研修の記録 | 事故発生の防止の研修を、未受講の職員2名が受けていない。伝達研修のふりかえり問題を3問作って | 転倒が起きやすい場面、報告の流れ、ヒヤリハットの書き方を問う3問 | 報告の流れは事業所のマニュアルと照らして直す。一般論のままだと手順が合わない |
| 委員会の議事録 | 感染対策委員会の開催案内と、議事録の枠を作って | 日時・出席者・議題・決定事項・職員への周知の枠と、議題案 | AIが条文や回数を書いたら消す。基準の確認は条文の原文で人が行う |
| 申し送り | 夜勤の「夕食時にむせ込みが1回ありました(すぐに治まる)。朝食は一口ごとに飲み込みを確かめてください」を早番向けに要約して | 「夕食で1回むせ(すぐ治まる)。朝食は一口ごとに飲み込み確認」 | 要約は使える。食形態を変えるかどうかは書かせない。看護職員に伝える |
使える度合いに、はっきり差が出ました。文章を短くする、整える、件数を言葉にする、の3つは、ほぼそのまま使える下書きでした。事故報告書と研修の問題は、下書きの骨組みとしては役に立ちますが、そのまま出せる出来ではありませんでした。
介護記録:空欄にさせるのがコツ
介護記録の依頼は、次のように書きました。
> 次の介護記録を、「見たこと・聞いたこと(事実)」「気づき・判断」「対応・その後」の3つに分けて書き直してください。書かれていない事実(時刻、本人の言葉、量)は作らず、( )の空欄にしてください。介助の方法や医療的な判断は書かないでください。
> 記録:Aさん。入浴を拒否されたため、様子見とした。
出てきた下書きは、こうです。
> 見たこと・聞いたこと(事実):(時刻)、入浴の声かけに対し「(本人の言葉)」と話され、入浴されなかった。
> 気づき・判断:(入浴されなかった理由として考えられること)
> 対応・その後:(時刻)に再度声をかけた/(清拭などに変更した場合はその内容)。
「拒否」「様子見」という言葉が消え、何を書き足せばよいかが空欄で見えるようになりました。空欄にするよう指示しないと、AIが「疲れているから入りたくない」のような、誰も聞いていない言葉を補うおそれがあります。記録の型そのものは
介護記録の書き方、場面ごとの言い換えは
介護記録の例文にまとめています。
事故報告書:観点の候補までにとどめる
事故報告書は、いちばん慎重に扱った書類です。AIに作らせたのは、原因分析で確かめる観点の候補だけです。
出てきたのは、本人の状態(夜間に一人で移乗しようとする行動が前日にもあった)、環境(ベッドと車いすの位置、夜間の明るさ)、職員の関わり(就寝前の声かけの時間)の3つです。それぞれに「確かめる質問」も付いていました。前日のヒヤリハットと事故を結び付けて見る視点は、委員会の話し合いの入り口として悪くありません。
ただ、この候補をそのまま原因分析の欄に書くのは危険です。報告書は市町村に出す書類で、書いたことは事実として読まれます。候補を見ながら職員に聞き取り、確かめたことだけを書きます。書き方の手順は
事故報告書の書き方で解説しています。
ヒヤリハットと委員会:数字を言葉にするのは得意
ヒヤリハットの12件を渡すと、下書きは件数の多い順に並べ、時間帯の偏りを短くまとめたものになりました。委員会の資料の書き出しとしては、十分に使えます。
人が足すべきなのは、件数の少なさへの断りです。各3件では偏りと言い切れないので、「件数が少ないため、来月も続けて見る」と一言添えます。
ヒヤリハットの件数は、
ヒヤリハット報告のアプリに入れると場所別・時間帯別・種類別に集計されます。集計はアプリ、その数字を委員会向けの文章にするのはAI、と分けると手戻りがありません。
よくある失敗と、その防ぎ方
10の下書きを作らせてみて、つまずきやすい点が見えてきました。
| よくある失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 実名のまま貼り付ける | 個人情報が外部のサービスに渡る | 貼る前に「Aさん」に置き換える。事業所の手順に書く |
| 「いい感じに直して」とだけ頼む | 事実が足され、言葉がきれいになりすぎる | 「事実は作らず空欄に」「判断は書かない」を毎回入れる |
| 下書きをそのまま提出する | 誰も確かめていない文が記録や報告書に残る | 書いた職員か、その場にいた職員が読んでから使う |
| AIに条文や回数を聞く | 古い、または存在しない条文が混ざる | 基準の確認は e-Gov法令検索などの原文で行う |
| 介助の方法を相談する | 利用者を見ていない推測が、ケアの変更につながる | 看護職員・医師に相談する。AIには決まったことの文章化だけ頼む |
表の中で、いちばん起きやすいのは2つ目です。AIは頼まれていない事実まで書き足すことがあるので、指示で止めておかないと、記録にそれらしい言葉が増えていきます。
始める前に事業所で決める3つのこと
ここまでの結果から、使い始める前に決めておきたいことは3つです。
1.
入れてはいけない情報:氏名、生年月日、住所、保険者番号、家族の連絡先など。置き換え方も決める
2.
頼んでよい仕事と、頼まない仕事:この記事の表の「そのまま下書きに使えた」を出発点にする
3.
確かめる人:下書きを誰が読み、どの時点で記録や報告書にするか
A4の紙1枚にまとめ、事務所に貼っておくくらいで十分です。研修の最初の回でも、この「個人情報を扱う現場での利用手順」を作るところから始めています。
書類の下書きの次は、書式をアプリにする
AIに下書きを頼むと、毎回同じ依頼文を貼り、同じ書式に写す作業が残ります。今回の10の書類仕事も、書式が決まっているものばかりでした。
exbk.jp の介護アプリは、その書式をアプリにしたものです。
介護記録のアプリは事実・気づき・対応の3つの欄に分かれていて、「特変なし」「様子見」などの言葉が入ると書き直しの目安を出します。アプリは
というAIの道具で作りました。
事業所ごとに書式や決まりは違います。自分の事業所の記録や報告書の書式を、職員が自分でアプリにできるようになれば、AIに毎回書式を説明する手間も減ります。介護事業所向けの
Claude Code 研修では、個人情報を扱う現場での利用手順づくりから、介護記録、事故報告書とヒヤリハット、送迎表と勤務シフト表のアプリづくり、自分の事業所の業務での実践演習までを、2時間×5回のZoomのライブで行います。
まとめ
- 介護のAI活用は、ケアの判断でなく書類の下書きから始める
- 見本データで10の書類仕事の下書きを作らせると、書き直し、要約、件数の文章化、連絡文は、ほぼそのまま使えた
- 事故の原因分析や研修の問題は、候補や骨組みまで。確定と照合は人が行う
- 利用者の個人情報は外部のAIに入れず、医療的な判断はAIにさせない。依頼文にも毎回書く
- 使う前に、入れない情報、頼む仕事、確かめる人の3つを事業所で決める
まずは
介護アプリの見本データをAIに渡して、自分の事業所の書類で同じ表を作ってみてください。書式ごとアプリにしたくなったら、
介護事業所向けの Claude Code 研修で、その作り方を職員が自分で身につけられます。