介護事業所の管理者やリーダーで、「AIを現場で何に使えるのか」「どこまで任せてよいのか」を知りたい人向けの記事です。

結論から書くと、最初に任せるのは書類の下書きです。ケアの判断はAIに渡しません。この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、架空の見本データで、事務所でよくある10の書類仕事の下書きを作らせました。その結果を、依頼の要点・出てきた下書き・人が直すべき点に分けて表にしています。

先に結論:AIに頼むのは下書きまで、判断は人

10の下書きを並べると、分かれ目ははっきりしていました。

区分下書きを作らせた仕事結果
そのまま下書きに使えた記録の言い回しの書き直し、ヒヤリハットの件数の文章化、家族への連絡文、会議の議題案、申し送りの要約読める下書きになった。人は数字と固有の事情を確かめる
下書きは出たが、人が大きく直す事故の原因分析の観点、研修のふりかえり問題観点の候補は役に立つ。ただし原因の確定や、事業所の手順との照合は人の仕事
AIにさせない受診が必要かの判断、食形態や介助の方法の変更、利用者の実名を使う作業最初から頼まない

AIは、渡された文章から「もっともらしい続き」を書く道具です。見ていない事実も、それらしく書いてしまうことがあります(と呼ばれます)。だから、事実を知っている職員が最後に読む前提で使います。

下書きに使ったのは、exbk.jp の介護アプリ(無料・登録なしで使える)に入っている見本データです。架空の事業所「【サンプル】さくらの里」の記録で、利用者も職員も出来事もすべて架空です。

exbk.jp の介護アプリの一覧画面。ダッシュボード、利用者台帳、介護記録、事故報告書など10種のアプリが並ぶ。表示しているのは見本データ
exbk.jp の介護アプリの一覧画面。ダッシュボード、利用者台帳、介護記録、事故報告書など10種のアプリが並ぶ。表示しているのは見本データ

AIに下書きを頼むだけでなく、事業所の書式そのものを職員がアプリにできるようになると、書類仕事はもう一段軽くなります。その方法は、介護事業所向けの Claude Code 研修で扱っています。

使う前に決める2つの線引き

10の結果を見る前に、線引きを2つ書いておきます。ここを決めずに使い始めるのが、いちばん多い失敗です。

利用者の個人情報を外部のAIに入れない

個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を出しています。事業者が個人情報を含む指示文(プロンプト)を入れる場合は、利用目的の範囲内かを十分に確かめること、入れた個人データがAIの学習に使われないかを確かめること、などが挙げられています。

現場で守りやすい形にすると、次のとおりです。

  • 氏名、生年月日、住所、保険者番号は入れない。「Aさん」「80代女性」に置き換える
  • 病名や服薬の内容も、下書きに必要がなければ消してから渡す
  • 置き換えた下書きを、事業所のパソコンの中で実名に戻す

今回の下書きでも、見本の名前(「見本 ウメ」など)はもともと架空ですが、依頼文では「Aさん」に置き換えました。

医療的な判断はAIにさせない

「むせたから、とろみを強くしたほうがいいか」「腫れているけど受診は必要か」。こうした問いをAIに投げると、答えらしい文章が返ってきます。けれど、それは利用者を見ていない者の推測です。判断は看護職員や医師が行い、AIには「判断したことを文章にする」ところだけを頼みます。

今回は、依頼文の最後に「介助の方法や医療的な判断は書かず、分からない事実は空欄にしてください」と足しました。

介護の書類仕事を、職員が自分でアプリにできるようになりませんか?
介護の現場向け Claude Code 研修
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10の書類仕事でAIに下書きを作らせた結果

ここからが本題です。依頼文の要点、出てきた下書きの要点、人が直すべき点を、アプリの10種の順に並べます。どれも、この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、見本データで下書きを作らせた結果です。

書類仕事渡した見本データと依頼の要点出てきた下書きの要点人が直すべき点
ダッシュボード感染対策委員会が開催の目安を4日過ぎている、今月のヒヤリハット12件、事故防止の研修があと1回。朝礼で読む3行の連絡にして「委員会の日程を今週中に決めます」「ヒヤリハットは今月12件」「研修はあと1回」の3行何から手を付けるかの順番はAIが決めた並び。管理者が優先順位を付け直す
利用者台帳申し送りの「移乗のときは右腕を持たないでください」を、台帳の注意事項欄に入る1行にして「移乗時は右腕を持たない(前腕打撲のため)」いつまで続けるかが抜けている。看護職員が確かめて「腫れが引くまで」などを足す
介護記録「入浴を拒否されたため、様子見とした。」を、事実・気づき・対応に分けて書き直して時刻、本人の言葉、再度の声かけの時刻を空欄にした3欄の下書き空欄は職員が見たことで埋める。空欄にせよと指示しないと、AIが言葉を作りかねない
事故報告書転倒で右前腕を打撲。前日の夜に一人で移乗しようとしたヒヤリハットあり。原因分析の観点を挙げて本人の状態、環境、職員の関わりの3つに分けた観点の候補と、確かめる質問原因を決めるのは人。候補を書き写すと、推測が事実のように報告書に残る
ヒヤリハット9月の12件の場所別・時間帯別・種類別の件数。委員会の資料に載せる傾向の文章にして「転倒が7件で最も多い。6〜9時と12〜15時が各3件」12件では傾向とまで言い切れない、と一言足す。対策は委員会で決める
送迎表2号車が点検のため、送りの出発を16:10にする。家族への連絡文にして出発が遅れる理由と、おおよその到着の遅れを伝える短い文2号車の利用者の家族だけに送る。到着時刻は送迎担当が道順から確かめて入れる
勤務シフト表架空の見本で、翌月分の希望休の締め切りを職員に知らせる文にして締め切り日、出し方、希望が重なったときの扱いを入れたお知らせ重なったときの決め方は事業所の決まりに合わせて書き換える。人員配置の確認は人
研修の記録事故発生の防止の研修を、未受講の職員2名が受けていない。伝達研修のふりかえり問題を3問作って転倒が起きやすい場面、報告の流れ、ヒヤリハットの書き方を問う3問報告の流れは事業所のマニュアルと照らして直す。一般論のままだと手順が合わない
委員会の議事録感染対策委員会の開催案内と、議事録の枠を作って日時・出席者・議題・決定事項・職員への周知の枠と、議題案AIが条文や回数を書いたら消す。基準の確認は条文の原文で人が行う
申し送り夜勤の「夕食時にむせ込みが1回ありました(すぐに治まる)。朝食は一口ごとに飲み込みを確かめてください」を早番向けに要約して「夕食で1回むせ(すぐ治まる)。朝食は一口ごとに飲み込み確認」要約は使える。食形態を変えるかどうかは書かせない。看護職員に伝える

使える度合いに、はっきり差が出ました。文章を短くする、整える、件数を言葉にする、の3つは、ほぼそのまま使える下書きでした。事故報告書と研修の問題は、下書きの骨組みとしては役に立ちますが、そのまま出せる出来ではありませんでした。

介護記録:空欄にさせるのがコツ

介護記録の依頼は、次のように書きました。

次の介護記録を、「見たこと・聞いたこと(事実)」「気づき・判断」「対応・その後」の3つに分けて書き直してください。書かれていない事実(時刻、本人の言葉、量)は作らず、( )の空欄にしてください。介助の方法や医療的な判断は書かないでください。
記録:Aさん。入浴を拒否されたため、様子見とした。

出てきた下書きは、こうです。

見たこと・聞いたこと(事実):(時刻)、入浴の声かけに対し「(本人の言葉)」と話され、入浴されなかった。
気づき・判断:(入浴されなかった理由として考えられること)
対応・その後:(時刻)に再度声をかけた/(清拭などに変更した場合はその内容)。

「拒否」「様子見」という言葉が消え、何を書き足せばよいかが空欄で見えるようになりました。空欄にするよう指示しないと、AIが「疲れているから入りたくない」のような、誰も聞いていない言葉を補うおそれがあります。記録の型そのものは介護記録の書き方、場面ごとの言い換えは介護記録の例文にまとめています。

事故報告書:観点の候補までにとどめる

事故報告書は、いちばん慎重に扱った書類です。AIに作らせたのは、原因分析で確かめる観点の候補だけです。

出てきたのは、本人の状態(夜間に一人で移乗しようとする行動が前日にもあった)、環境(ベッドと車いすの位置、夜間の明るさ)、職員の関わり(就寝前の声かけの時間)の3つです。それぞれに「確かめる質問」も付いていました。前日のヒヤリハットと事故を結び付けて見る視点は、委員会の話し合いの入り口として悪くありません。

ただ、この候補をそのまま原因分析の欄に書くのは危険です。報告書は市町村に出す書類で、書いたことは事実として読まれます。候補を見ながら職員に聞き取り、確かめたことだけを書きます。書き方の手順は事故報告書の書き方で解説しています。

ヒヤリハットと委員会:数字を言葉にするのは得意

ヒヤリハットの12件を渡すと、下書きは件数の多い順に並べ、時間帯の偏りを短くまとめたものになりました。委員会の資料の書き出しとしては、十分に使えます。

人が足すべきなのは、件数の少なさへの断りです。各3件では偏りと言い切れないので、「件数が少ないため、来月も続けて見る」と一言添えます。

ヒヤリハットの件数は、ヒヤリハット報告のアプリに入れると場所別・時間帯別・種類別に集計されます。集計はアプリ、その数字を委員会向けの文章にするのはAI、と分けると手戻りがありません。

よくある失敗と、その防ぎ方

10の下書きを作らせてみて、つまずきやすい点が見えてきました。

よくある失敗起きること防ぎ方
実名のまま貼り付ける個人情報が外部のサービスに渡る貼る前に「Aさん」に置き換える。事業所の手順に書く
「いい感じに直して」とだけ頼む事実が足され、言葉がきれいになりすぎる「事実は作らず空欄に」「判断は書かない」を毎回入れる
下書きをそのまま提出する誰も確かめていない文が記録や報告書に残る書いた職員か、その場にいた職員が読んでから使う
AIに条文や回数を聞く古い、または存在しない条文が混ざる基準の確認は e-Gov法令検索などの原文で行う
介助の方法を相談する利用者を見ていない推測が、ケアの変更につながる看護職員・医師に相談する。AIには決まったことの文章化だけ頼む

表の中で、いちばん起きやすいのは2つ目です。AIは頼まれていない事実まで書き足すことがあるので、指示で止めておかないと、記録にそれらしい言葉が増えていきます。

始める前に事業所で決める3つのこと

ここまでの結果から、使い始める前に決めておきたいことは3つです。

  1. 入れてはいけない情報:氏名、生年月日、住所、保険者番号、家族の連絡先など。置き換え方も決める
  2. 頼んでよい仕事と、頼まない仕事:この記事の表の「そのまま下書きに使えた」を出発点にする
  3. 確かめる人:下書きを誰が読み、どの時点で記録や報告書にするか

A4の紙1枚にまとめ、事務所に貼っておくくらいで十分です。研修の最初の回でも、この「個人情報を扱う現場での利用手順」を作るところから始めています。

書類の下書きの次は、書式をアプリにする

AIに下書きを頼むと、毎回同じ依頼文を貼り、同じ書式に写す作業が残ります。今回の10の書類仕事も、書式が決まっているものばかりでした。

exbk.jp の介護アプリは、その書式をアプリにしたものです。介護記録のアプリは事実・気づき・対応の3つの欄に分かれていて、「特変なし」「様子見」などの言葉が入ると書き直しの目安を出します。アプリは というAIの道具で作りました。

事業所ごとに書式や決まりは違います。自分の事業所の記録や報告書の書式を、職員が自分でアプリにできるようになれば、AIに毎回書式を説明する手間も減ります。介護事業所向けの Claude Code 研修では、個人情報を扱う現場での利用手順づくりから、介護記録、事故報告書とヒヤリハット、送迎表と勤務シフト表のアプリづくり、自分の事業所の業務での実践演習までを、2時間×5回のZoomのライブで行います。

まとめ

  • 介護のAI活用は、ケアの判断でなく書類の下書きから始める
  • 見本データで10の書類仕事の下書きを作らせると、書き直し、要約、件数の文章化、連絡文は、ほぼそのまま使えた
  • 事故の原因分析や研修の問題は、候補や骨組みまで。確定と照合は人が行う
  • 利用者の個人情報は外部のAIに入れず、医療的な判断はAIにさせない。依頼文にも毎回書く
  • 使う前に、入れない情報、頼む仕事、確かめる人の3つを事業所で決める

まずは介護アプリの見本データをAIに渡して、自分の事業所の書類で同じ表を作ってみてください。書式ごとアプリにしたくなったら、介護事業所向けの Claude Code 研修で、その作り方を職員が自分で身につけられます。