介護記録は毎日書くのに、書き方を教わる機会はあまりありません。たいていは先輩の記録をまねして覚えます。そのため「特変なし」「様子見」のような言い回しも、そのまま引き継がれていきます。
この記事では、記録を3つの欄に分ける型と、場面ごとの「よくない例」と「書き直した例」を表で並べます。例文はすべて書き方の見本で、実在の事業所や利用者の話ではありません。
先に結論:3つの欄に分けて、時刻・量・本人の言葉を入れる
よい記録かどうかの目安は、ほかの人が読んでも同じ場面が浮かぶかです。そのために、1つの記録を次の3つに分けて書きます。
| 欄 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 見たこと・聞いたこと(事実) | 時刻、場所、量、表情、本人の言葉 | 14:10、昼食は主食3割。「のどが痛い」と話された |
| 気づき・判断 | 事実から考えたこと | のどの痛みで食べにくかったと思われる |
| 対応・その後 | 行ったこと、報告先、次に見ること | 14:15、看護師に報告。16時に再度体温を測る |
あわせて、「特変なし」「様子見」「不穏」のような言葉は、何を見てそう判断したかに書き換えます。記録は、国の運営基準で完結の日から二年間の保存が求められています。
この3つの欄をそのまま画面にしたのが、exbk.jp の介護記録のアプリです。無料で、登録なしで使えます。
介護記録は誰が読むのか
記録を読むのは、書いた本人ではありません。次の勤務の職員、看護師や医師、ケアマネジャー、家族、場合によっては行政です。どの人もその場にいなかったので、書かれたことだけを頼りに場面を思い浮かべます。
記録の役目は、場面を伝えることのほかに2つあります。
- 利用者の小さな変化に職員みんなで気づき、ケアプランの見直しや医療職への相談の材料にする
- どんなサービスを提供したかを示す証拠として残す
書く前に押さえる5つの基本
5W1Hは見直しの目安にする
いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように。毎回全部をそろえる必要はありません。書き終えたあとに抜けがないかを見直すための目安です。抜けやすいのは時刻と量です。
事実と自分の考えを分ける
「落ち着かない様子」は見たことではなく、見たことから考えた結果です。読む人が知りたいのは、そう考えた理由のほうです。
- 事実:「居室と廊下を3回往復し、『家に帰らないと』と話された」
- 気づき:「帰宅したい気持ちが強いと思われる」
事実を先に書き、考えたことは「〜と思われる」と分けて書きます。
本人の言葉は「」でそのまま残す
「拒否された」とだけ書くと、理由がわかりません。「『今日は疲れたから、入りたくない』と話された」と書けば、本人の気持ちまで伝わります。言い換えずに、聞いたとおりに「」へ入れます。
常体で、1文に1つの出来事を書く
記録は常体(だ・である調)で短く書くのが一般的です。1つの文に出来事を2つ3つ詰めると、何がいつ起きたのかが読み取りにくくなります。事業所で決まりがあれば、それに合わせてください。
事業所の中だけの略語を控える
「Pトイレ」「W/C」は職員同士なら通じますが、家族やほかの事業所の人には通じません。読む人の範囲が広い記録ほど、省略しないほうが安全です。
事実・気づき・対応の型で書いた見本
冒頭の表の3つの欄で、1件を通して書くと次のようになります。
見たこと・聞いたこと(事実):14:10、居室で臥床中。昼食は主食3割、副食半分。「のどが痛い」と話された。体温37.0℃。
気づき・判断:食事量が普段より少ない。のどの痛みで食べにくかったと思われる。
対応・その後:14:15、看護師に報告。水分をとっていただき、お茶150mlを飲まれた。16時に再度体温を測る。
欄が分かれていると、事実の欄に推測を書きかけたところで「これは気づきの欄だ」と手が止まります。書く人の注意力に頼らず、書式で書き分けを助けるやり方です。
医療的な判断は、記録を書く職員の役目ではありません。本人の言葉と数値を残し、看護師に報告したことを書けば足ります。
場面別の例文:よくない例と書き直した例
場面ごとに、ありがちな書き方と書き直した例を並べます。数値や言葉は見本です。
食事と水分
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 食欲なし。 | 12:10、昼食。主食2割、副食3割、汁物全量。「おなかがいっぱい」と話された。 | 量を割合で書き、本人の言葉を残した |
| むせあり。様子見。 | 12:20、汁物を飲んだ際に2回むせた。その後は咳込みなく、表情に変わりなし。次の食事でもむせの有無を見る。 | 回数、その後の様子、次に何を見るかを書いた |
| 水分少なめ。 | 10時にお茶100ml、15時にお茶50ml。15時は「もういらない」と話され、残された。 | 時刻と量を書き、残した理由を本人の言葉で書いた |
入浴
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 入浴拒否。 | 10:30、入浴に声をかけると「今日は疲れたから入りたくない」と話された。11:00に再度声をかけたが同じ返事のため、清拭に変更した。 | 本人の言葉、声かけの回数、代わりに行ったことを書いた |
| 入浴。特変なし。 | 10:30、一般浴。入浴前 体温36.5℃。背中と足に皮膚の赤みや傷なし。「気持ちいい」と話された。 | 何を見て「変わりなし」としたかを書いた |
排泄
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 排便あり。 | 7:40、トイレで排便あり。普通便、中等量。 | 時刻、場所、形状と量を書いた |
| 失禁あり、交換させた。 | 21:00、パッドに排尿あり(パッドの半分程度)。本人に声をかけ、パッドを交換した。 | 量を書き、「させた」を行った介助の言葉に直した |
移乗
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 移乗時ふらつき。気をつける。 | 13:00、ベッドから車いすへ移乗。立ち上がった際に膝が曲がり、職員が腰を支えた。「足に力が入らない」と話された。 | どの動作で、どうなり、誰が何をしたかを書いた |
夜間
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 夜間不穏。 | 2:10、廊下に出て「トイレはどこ」と話された。トイレへ案内し排尿あり。2:25に居室へ戻り、2:40の巡視で入眠を確認した。 | 「不穏」を、見た様子と言葉と対応に置き換えた |
| 良眠。 | 22時、0時、2時、4時の巡視で入眠を確認。 | 何時に何を確かめたかを書いた |
訴えや、やりとりが難しかった場面
| よくない例 | 書き直した例 | 直したところ |
|---|---|---|
| 暴言あり。 | 16:00、おむつ交換の声かけをした際、「触るな、あっちへ行け」と大きな声で話された。5分後に別の職員が声をかけると交換に応じられた。 | 実際の言葉を「」で書き、前後の状況を書いた |
| わがままを言われる。 | 夕食時、「魚は食べたくない、卵がいい」と話された。栄養士に伝え、代わりの品を相談した。 | 本人の希望として、言葉と内容を書いた |
よくある失敗:場面が伝わらない6つの言葉
表の「よくない例」に何度も出てきた言葉を、まとめて見ておきます。
| 言葉 | 読む人に伝わらないこと | 書き換えの方向 |
|---|---|---|
| 特変なし | 何を確かめて変わりなしとしたのか | 確かめた項目と結果を書く |
| 様子見 | 次に何を、いつ見るのか | 次に見ることと時刻を書く |
| 不穏 | 実際に何が起きたのか | 見た様子、本人の言葉、対応を書く |
| 暴言 | 何と言われ、前後に何があったのか | 言葉を「」で残し、前後の状況を書く |
| わがまま | 本人が何を望んだのか | 希望の中身を本人の言葉で書く |
| させた | 職員が何を介助したのか | 行った介助の言葉に直す |
どれも書き手の頭の中では場面が浮かんでいますが、読む人には判断の結果しか届きません。見たことに戻して書き足します。
書いたあとに見直す5つの問い
出す前に次の5つを確かめると、抜けが減ります。
- 時刻は入っているか
- 量や回数は、数字か割合で書いたか
- 本人の言葉は「」でそのまま残したか
- 推測は、事実と分けて書いたか
- 誰に報告し、次に何をするかは書いたか
テンプレートとして使える書式
紙でも表計算ソフトでも、次の項目を並べておけばここまでの型で書けます。
| 項目 | 記入の見本 |
|---|---|
| 日付・時刻 | 9月16日 14:10 |
| 種類 | 食事/水分/排泄/入浴/服薬/バイタル/様子 など |
| バイタル | 体温、血圧、脈拍 |
| 見たこと・聞いたこと(事実) | 時刻・場所・量・本人の言葉 |
| 気づき・判断 | 推測は「〜と思われる」 |
| 対応・その後 | 行ったこと、報告先、次に見ること |
| 記録者 | 名前 |
アプリで書く場合
介護記録のアプリも、この項目の並びです。事実・気づき・対応の3つの欄に分けて入力し、「特変なし」「様子見」「させた」などの言葉が入っていると、書き直しの目安が表示されます。日ごとの印刷もできます。
言葉の点検は、その言葉が含まれているかどうかだけで目安を出す仕組みです。文の意味までは読みません。表示が出たら、書いた人が読み直して判断してください。
介護記録の保存期間
国の運営基準は、サービスの提供の記録などについて「その完結の日から二年間保存しなければならない」と定めています。訪問介護や通所介護などの居宅サービスの基準にも、介護老人福祉施設の基準にも、同じ書き方があります。
ただし、事業所の所在地の自治体が条例で別の期間を定めている場合もあります。保存期間を決めるときは、所管の自治体の取扱いも確かめてください。
記録の書式を、職員が自分でアプリにする
介護記録のアプリは で作りました。ただ、どの言葉を見直しの対象にするか、どう書き直せば伝わるかをいちばんよく知っているのは現場の職員です。
事業所の決まりに沿った書式を職員が自分でアプリにできるように、介護の現場向けの Claude Code 研修を行っています。介護記録のほかにも、介護の現場向けに作った10種のアプリを介護アプリの一覧から使えます。
まとめ
- よい記録の目安は、その場にいなかった人が読んでも同じ場面が浮かぶか
- 事実、気づき・判断、対応・その後の3つの欄に分けると、推測が事実に混ざりにくい
- 時刻、量、本人の言葉を入れる。「特変なし」「様子見」「不穏」は、何を見てそう判断したかに書き換える
- 記録は完結の日から二年間の保存が国の基準。自治体の定めも確かめる
自分の事業所の書式に合わせた記録アプリを職員の手で作りたい場合は、Claude Code 研修の内容をご覧ください。
