賃貸管理の担当者が「この給湯器、前はいつ替えたんだっけ」と探しはじめて、メールと見積書のフォルダを30分さかのぼる。修繕履歴が残っていない事務所では、これが毎月どこかで起きています。

この記事は、賃貸管理会社と大家さんの担当者向けに、修繕の記録に何を残せばいいのか、そこからオーナー報告をどう作るのか、次の修繕の見通しをどう立てるのかを、表と手順でまとめたものです。法令の値は e-Gov 法令検索で条文を確かめて書いています。例に出す物件名や金額はすべて見本で、実在の物件ではありません。

先に結論:1件を1行で、8つの項目をそろえる

修繕履歴でやることは、たった1つです。修繕を1件受けたら、その場で1行を足す。 行に入れる項目は次の8つ。

項目入れる内容よくある空欄
日付工事が完了した日(または発注日)「今年の春ごろ」で止まる
物件物件名略称と正式名が混ざる
部屋部屋番号、または「共用部」共用部の扱いが決まっていない
種類水回り、設備、内装、外装・屋根、共用部 など人によって呼び方が違う
内容何をどうしたか(給湯器の交換、屋上防水の部分補修)「修理」だけで終わる
業者発注先の会社名担当者の頭の中だけにある
費用税込の金額見積のままで実額に直していない
費用の負担者オーナー、入居者、未定いちばん抜ける。あとから誰も分からない

この8つがそろっていれば、あとは足し算です。物件でしぼれば物件別の費用が出て、年でしぼれば年別の費用が出ます。オーナーへの報告はその2つの合計に一言を添えるだけ。次の修繕の見通しも、同じ部位の行が何年おきに並んでいるかを見れば立ちます。

逆に言うと、集計の段になって困るのは、項目が足りないときではなく、項目の書き方が人によって違うときです。「給湯器交換」「給湯器の取替」「ガス給湯器 交換工事」の3つが混ざった表は、検索しても3分の1しか出てきません。種類の欄は選ぶ形にして、自由に書く欄は内容だけにするのが現実的です。

exbk.jp の修繕の履歴は、この8項目をそのまま並べたアプリです。無料で、登録なしで使えます。開くと見本のデータが入っているので、書き換えて試せます。

修繕の履歴アプリの画面。見本データで物件別・年別の費用を集計しているところ
修繕の履歴アプリの画面。見本データで物件別・年別の費用を集計しているところ

事務所の書式にこういう並びを作るところまでは、担当者が自分でできます。その一歩先、事務所の運用に合わせた入力の画面を自分で作れるようにする不動産会社向けの Claude Code 研修もあります。物件台帳や契約更新の管理と同じで、修繕履歴も題材のひとつです。

修繕履歴に何を残すか

種類は5つくらいに絞る

種類の欄を細かく分けると、入力のときに迷って手が止まります。先ほどのアプリでは、水回り、設備、内装、外装・屋根、共用部の5つに分けていました。この粒度なら、迷う時間がほぼゼロで、集計したときにも意味のある差が出ます。

「エアコンの交換」は設備、「退去後の居室の壁紙の張り替え」は内装、「屋上防水の部分補修」は外装・屋根、「共用廊下の照明をLEDに交換」は共用部。この4件が1年に並んでいれば、そのアパートが今どの段階にあるかが、金額を見なくても分かります。

状況の欄を1つ足すと、追いかけが楽になる

8項目に加えて、もう1列あると便利なのが「状況」です。見積中、手配済み、完了の3つで足ります。

修繕が面倒なのは、受けてから完了まで日がかかることです。入居者から「台所の水漏れ」と連絡が来て、業者に見に行ってもらい、見積が出て、オーナーに確認して、工事が入る。この間に別の案件が3つ来れば、どれがどこまで進んだかが分からなくなります。状況の列があれば、朝いちばんに「見積中」だけを見ればいい。

費用は税込に統一する

見積書は税抜、請求書は税込、というのはよくあります。どちらでもいいのですが、表の中では必ず片方にそろえてください。混ざった列を合計しても、その数字はオーナーに出せません。

物件台帳や修繕の記録を、担当者が自分でアプリにできるようになりませんか。
不動産の現場向け Claude Code 研修
研修の内容を見る

費用をどちらが負担するかは、記録の時点で書く

「負担者」の欄が空欄のまま放置されるのは、その場で決められないからです。決められないなら「未定」と書いてください。空欄と「未定」は、見た目は似ていても意味がまったく違います。空欄は「考えていない」、未定は「考えたうえで保留した」です。

貸主の修繕義務(民法606条)

民法606条1項は、こう定めています。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

同条2項では、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」とされています。

つまり、住むのに必要な修繕は原則として貸主の負担で、入居者のせいで必要になった分はその限りではない、という組み立てです。給湯器が寿命で壊れたのか、入居者が何かをして壊れたのかで結論が変わるので、記録の内容の欄に「経年により」「入居者の申告では」といった一言を入れておくと、あとで判断できます。

入居者が先に直したとき(民法607条の2・608条)

民法607条の2は、修繕が必要な場合に賃借人が修繕できる場面を2つ挙げています。ひとつは「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき」、もうひとつは「急迫の事情があるとき」です。

そのうえで608条1項は、「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」と定めています。2項は有益費について、賃貸借の終了の時に償還する仕組みを置いています。

管理の実務で効いてくるのは、通知を受けた日付が残っているかどうかです。「連絡はもらっていない」「いや言った」の水かけ論は、修繕履歴に受付日の行が1本あるだけで止まります。連絡を受けた時点で、まだ何も決まっていなくても1行足してください。

退去時の原状回復は別の話として扱う

入居中の修繕と、退去時の原状回復は、費用の負担の考え方が違います。同じ表に入れてもかまいませんが、負担者の欄で必ず分けてください。原状回復でどこまでが入居者の負担になるかは、原状回復の負担区分にまとめています。退去の立会いの場で何を見て何を写真に残すかは、退去の立会いのほうが詳しいです。

オーナー報告は集計の結果に一言を添えるだけ

オーナーへの修繕の報告で時間を取られているなら、たいていは毎回ゼロから文章を書いているからです。必要なのは次の3つで、そのうち2つは集計から自動的に出ます。

報告に入れるものどこから来るか
今年の修繕の件数と合計額年でしぼった集計
物件ごとの内訳物件でしぼった集計
来年に見ておきたい修繕履歴の並びを見た担当者の判断

3つめだけが人の仕事です。ここに時間を使うために、1つめと2つめを手作業から外します。

見本のデータで実際の形を見てみます。アプリに最初から入っている見本では、7件・750,200円のうち、2029年分が6件・420,200円でした。この2つの数字は、行を足していれば勝手に出ます。

AIに報告の下書きを作らせてみた

この記事を書くのに使った生成AI(Claude)に、上の見本データを渡して、オーナーへの報告の下書きを作らせました。出てきたのが次の文面です。

サンプルハイツ・サンプルレジデンスの2029年の修繕についてご報告いたします。本年は6件、合計420,200円の修繕を実施いたしました。内訳は、給湯器の交換(201号室・165,000円)、退去後の居室の壁紙の張り替え(103号室・88,000円)、エアコンの交換(202号室・121,000円)、共用廊下の照明のLED化(24,200円)、床の傷の部分補修(103号室・22,000円、入居者様のご負担)ほかです。前年は屋上防水の部分補修(330,000円)を実施しております。102号室の台所の水漏れについては現在点検中で、結果が出次第あらためてご連絡いたします。

そのまま送れる文章ではありません。「ほか」でまとめた部分は実際には1件ずつ書いたほうがいいし、水漏れの点検の段取りも足りない。ただ、数字の拾い出しと並べ替えは合っていました。ここから手を入れるほうが、白紙から書くより早い。

注意点をひとつ。入居者の氏名や連絡先を、そのまま生成AIに貼り付けないでください。部屋番号と工事の内容だけで、報告の下書きは十分に作れます。

次の修繕の見通しは、履歴の縦の並びから読む

修繕履歴が数年たまると、そこから先が読めるようになります。読み方は難しくありません。同じ部位の行が、何年おきに並んでいるかを見るだけです。

  • 同じ号室のエアコンが、5年前と今年に並んでいる → 他の号室も同じ時期に入れた設備なら、そろそろ来る
  • 屋上防水の部分補修が2年続けて出ている → 部分補修ではもたない段階に入っている可能性がある
  • 給湯器の交換が、去年2件、今年2件 → 棟ごと同じ時期に設置されたものが、順に寿命を迎えている

どれも「必ずそうなる」という話ではありません。設備の寿命は使い方でも変わるので、履歴は業者に相談を持ちかけるときの材料として使うのが現実的です。「この3年でこの部位に何件、いくらかかっています」と数字を出して相談すれば、見積の精度も相談の速さも変わります。

なお、修繕の周期の目安や、減価償却をはじめとする税の扱いについては、この記事では書きません。確かめられていないからです。税の扱いは顧問の税理士に、設備の寿命はメーカーの資料と施工業者に確かめてください。

よくある失敗

現場で聞く話と、集計の作業でつまずく箇所を並べます。

失敗何が起きるか直し方
物件ごとにファイルを分ける横断の集計ができず、結局手で足し算する1つの表に全物件を入れ、物件の列でしぼる
メールのやりとりだけで済ませる担当者が替わった瞬間に履歴が消える受付の時点で1行足す。内容は後から埋める
見積額のまま放置する請求額とずれた合計をオーナーに出してしまう完了時に実額へ書き換えるのを手順に入れる
負担者を空欄にする半年後に誰も経緯を思い出せないその場で決まらなければ「未定」と書く
種類を自由入力にする表記が割れて検索にも集計にも使えない選ぶ形にして5つ程度に固定する
共用部の扱いを決めていない部屋の欄が空欄の行が増える部屋の欄に「共用部」と入れる決まりにする

どれも、入力の形を先に決めておけば起きません。運用の決まりを紙に1枚書いて、事務所の全員が同じ形で入れる。それだけで、集計の作業はほとんど消えます。

表計算ソフトから、事務所の形に合わせた画面へ

ここまでの内容は、表計算ソフトでも実現できます。列を8つ並べて、種類の列を選ぶ形にした雛形()を1つ作っておけば十分です。

それでも入力の画面を用意したくなるのは、次の3つの場面です。ひとつは、外出先のスマートフォンから1行足したいとき。ひとつは、担当者が3人以上いて、書き方をそろえたいとき。もうひとつは、オーナーごとに印刷の形を変えたいときです。

exbk.jp の修繕の履歴では、物件と年でしぼった一覧をそのまま印刷でき、CSVという表計算ソフトで開ける形でも書き出せます。ログインしなければ、入力したデータはその端末のブラウザの中にだけ残ります。事務所のパソコンと外出先のスマートフォンで同じデータを見たい場合はアカウント登録が必要です。ブラウザのデータを消す前には、バックアップを書き出しておいてください。

このアプリは という、日本語で指示を書くとプログラムを作ってくれる道具で作りました。作業そのものは、画面に並べたい項目を言葉で伝えるだけです。

事務所によって、入れたい項目は違います。管理戸数が多ければオーナー名の列がいるでしょうし、サブリースの物件があれば負担者の選択肢を増やしたくなる。こうした手直しを外注せずに担当者が自分でできるようにするのが、不動産会社向けの Claude Code 研修です。賃貸管理や売買仲介の営業担当・事務員の方が対象で、Zoom で2時間×5回、題材は物件台帳や追客、契約更新、入金確認といった実務の書類に限っています。人材開発支援助成金の対象になっている研修でもあります。

不動産の仕事でAIをどこに使い、どこには使わないかの全体像は不動産会社のAI活用に、契約更新の管理は賃貸契約の更新管理に、家賃の入金確認と追客は家賃の追客にまとめています。

まとめ

  • 修繕を受けたら、その場で1行。日付・物件・部屋・種類・内容・業者・費用・負担者の8項目をそろえる
  • 負担者の欄は、決まらなければ「未定」と書く。空欄にしない。民法606条は貸主の修繕義務を定め、入居者の責めによる場合を除いています
  • 入居者からの連絡を受けた日付を残す。607条の2・608条の話になったとき、この1行が効く
  • オーナー報告は、年別と物件別の集計に「来年に見ておきたい修繕」を添えるだけにする
  • 次の修繕の見通しは、同じ部位の行が何年おきに並んでいるかを見て、業者への相談の材料にする

修繕履歴は、たまるほど価値が上がる記録です。今日の1件から形をそろえて足していけば、3年後には見通しを語れる表になります。その入力の形を、事務所の運用に合わせて自分たちで作り直せるようになりたければ、不動産会社向けの Claude Code 研修をのぞいてみてください。