この記事は、賃貸仲介や賃貸管理をしている中小の不動産会社の経営者と事務担当の方に向けて、生成AIを何に使えて、どこまで任せてよいかを具体例で示すものです。
先に答えを書きます。使い始めるなら、事務の書類の「下書き」からです。この記事を書くのに使った生成AI、(Anthropic社の対話型AI)に、見本データで10の書類仕事の下書きを作らせたところ、7つはそのまま土台に使える出来でした。ただし、広告の文と重要事項説明は、宅建士が確かめる前提でしか使えません。入居者の個人情報は、外部のAIに入れません。
以下の下書きは、すべてこの記事を書いている Claude が見本データからその場で作ったものです。物件・部屋・人の名前は、exbk.jp の不動産アプリに入っている架空の見本データ(【サンプル】サンプルハイツなど)を使いました。
先に結論:任せてよい仕事と、人が確かめる仕事
10の書類仕事を、下書きの出来で3つに分けると次のようになります。
| 分け方 | 書類仕事 | 使い方 |
|---|---|---|
| そのまま土台に使えた | 反響への返信メール、追客メモの整理、更新のご案内、家賃のお知らせ、立会いメモの清書、修繕のオーナー報告、月次の報告の要約 | 下書きを読み直し、日付・金額・条件を台帳と照らして送る |
| 頼み方で結果が変わった | 物件紹介文 | 「渡した事実だけで書く」と指示する。載せる前に宅建士が確かめる |
| 店の表と合わせて使う | 内見の確認項目 | 店の確認表と照らして足し引きする |
| 下書きの下書き止まり | 重要事項説明の準備 | 項目の洗い出しの参考まで。宅建士が法令と資料で確かめる |
3つ目の重要事項説明と、2つ目の物件紹介文は、どちらも法律で決まりがある書類です。この2つは、AIの出来がよくても最後は人が責任を持つ書類だと考えてください。
使ったデータは、exbk.jp の不動産アプリ(無料・登録なしで使える)に最初から入っている見本です。物件台帳、反響・追客、契約更新、入金確認、退去立会い、修繕履歴、内見チェック、紹介文、重要事項説明の準備、それらをまとめるダッシュボードの10種類があり、見本の数字をそのままAIへの依頼に使えます。これらのアプリは、社員が自分でアプリを作れるようになる不動産会社向けの研修で、受講者が作るものと同じ10種類です。
10の書類仕事の下書きをAIに作らせた結果(一覧)
依頼文は、どれも「あなたは賃貸管理会社の事務担当です」と役割を書き、見本データを箇条書きで渡し、「渡した事実以外は書かない」「わからないところは【 】で空けておく」と付け足した形にしました。例外は1番の紹介文で、この付け足しがある依頼文とない依頼文の両方で下書きを作り、違いを見ています。
| # | 書類仕事 | 渡した見本データ | 出てきた下書き | 人が直した・確かめた点 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 物件紹介文 | サンプルハイツ103、1K・25.5㎡、賃料57,000円、管理費3,000円、徒歩9分、特徴3つ | 「事実だけ」の依頼では使える文。「魅力的に」の依頼では日当たり・駅からの近さの言葉が入った | 足された言葉を削る。徒歩分数と築年は台帳で確かめる |
| 2 | 反響への返信メール | 反響の見本(サンプルレジデンス302への新規の問い合わせ) | お礼、空き確認中の一言、内見の候補日を聞く文。候補日は【 】で空いた | 空室かどうかを確かめてから送る |
| 3 | 追客メモの整理 | 見本の連絡メモ3件(連絡日と話した内容) | 「次に連絡する日」「お客様の希望」「宿題」に分けた要約 | 次の連絡日を反響の一覧に写す |
| 4 | 更新のご案内 | サンプルハイツ102、普通建物賃貸借、2029年11月30日まで | 更新の意思を確かめる案内文。更新料の欄は【 】 | 更新料や条件を契約書で確かめて埋める |
| 5 | 家賃のお知らせ | 一部入金の見本(残り24,000円) | 入金のお礼と、残りの金額と振込先を書く案内 | 金額を入金確認の記録と照らす。口座番号はAIに入れず、あとから人が書く |
| 6 | 退去立会いメモの清書 | 箇条書きの立会いメモ(場所・傷・写真番号) | 場所ごとの表に清書。借主の説明と担当者の見立ても分けて書けた | 負担の区分はAIに決めさせず、担当者が判断する |
| 7 | 修繕のオーナー報告 | 修繕の見本(内容・業者・費用・状況) | オーナー向けの報告文と、合計金額の一行 | 合計を修繕履歴の数字と照らす |
| 8 | 内見の確認項目 | 1Kの空室、お客様の希望(在宅勤務・自転車あり) | 部屋・設備・共用部・周りの確認項目 | 店の確認表と合わせて足し引きする |
| 9 | 重要事項説明の準備 | 建物の貸借、普通建物賃貸借 | 説明する項目を5つ並べた一覧 | 法令と照らすと抜けがあった。宅建士が法令で確かめる |
| 10 | 月次の報告の要約 | ダッシュボードの見本の数字(空室2室、空室率16.7%、9月の修繕費189,200円など) | オーナー向けの5行の要約 | 数字の写し間違いがないかを見る |
表の右端の「人が直した・確かめた点」が、この記事でいちばん伝えたいところです。AIに頼んでも、この列の仕事はなくなりません。
実際の依頼文と、出てきた下書き
表だけでは様子が伝わりにくいので、人の手が多く要った3つを、依頼文と下書きの要点ごと載せます。
物件紹介文:頼み方で、書き足される言葉が変わる
1つ目は、付け足しのない依頼文です。
サンプルハイツ103号室(1K・25.5㎡、賃料57,000円、管理費・共益費3,000円、サンプル駅徒歩9分、南向きのバルコニー、2029年8月に居室の壁紙を張り替え、洗濯機置き場は室内)の紹介文を、魅力的に書いてください。
この依頼文で作った下書きの書き出しはこうです。
南向きバルコニーで日当たり良好。壁紙張り替え済みのきれいなお部屋で、駅からも近く通勤・通学に便利です。
「日当たり良好」も「駅からも近く」も、渡していない情報です。南向きでも、向かいの建物で影になる部屋はあります。徒歩9分を「近い」と言えるかも、人によって違います。
2つ目は、同じ事実に次の条件を足した依頼文です。
渡した事実だけで書いてください。日当たり・静かさ・周りの環境など、渡していないことは書かないでください。「駅近」「日当たり良好」のような評価の言葉も使わないでください。
こちらで作った下書きは、渡した事実を並べ直しただけの、地味ですがそのまま使える文です。広告の文は、宅地建物取引業法の第32条で、事実と著しく違う表示や、実際より著しく優良・有利と思わせる表示が禁じられています。AIの「魅力的に」は、この線を簡単に越えます。
exbk.jp の物件紹介文の下書きは、物件台帳の部屋を選ぶと、事実だけでひな形を作ります。徒歩の分数は道路距離から計算し、書き足した文に広告で根拠なく使えない言葉が入っていると知らせます。

AIに文章を整えてもらうのは、このひな形ができたあとで十分です。
更新のご案内:契約の種類を確かめないと、文面の前提が変わる
普通建物賃貸借の見本(サンプルハイツ102、2029年11月30日まで)で作った下書きは、更新の意思を確かめる案内文で、更新料や新しい条件の欄は【 】で空けてあります。
文面は整っていても、前提が合っているかは別の話です。同じ文面を定期建物賃貸借の部屋に使うと、更新のない契約に更新の案内を出すことになります。定期建物賃貸借は期間が来れば終わる契約で、要るのは更新の案内ではなく終了の通知です。依頼文には、契約の種類を必ず書いてください。
通知には期限があります。借地借家法の第38条では、期間が1年以上の定期建物賃貸借について、期間の満了の1年前から6月前までの間に、終了する旨を借主に通知しないと、その終了を借主に主張できないとされています。どの部屋が定期建物賃貸借で、いつが通知期間かは、AIに聞くものではなく台帳で管理しておくものです。exbk.jp の契約更新の管理は、契約ごとに更新の案内を出す時期を一覧にし、定期建物賃貸借は通知期間も表示します。
重要事項説明の準備:一覧は出るが、そのまま使える出来ではない
「建物の貸借で、重要事項説明で説明する項目を並べて」という依頼文で作った下書きは、登記された権利、法令上の制限、飲用水・電気・ガス、契約の解除、敷金の扱いの5項目でした。項目の見当をつけるには役立ちます。
ただ、宅地建物取引業法の第35条第1項と照らすと、借賃以外に受け渡しする金銭の額と目的(第7号)、損害賠償額の予定や違約金(第9号)、既存の建物の建物状況調査(第6号の2)が抜けていました。同法の施行規則で決まっている項目は、下書きにはほとんど出てきません。重要事項説明は、宅地建物取引業法の第35条で、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士が書面を交付して説明することになっています。AIの一覧は、宅建士が確かめる前の「たたき台」以上には使わないでください。
exbk.jp の重要事項説明の準備チェックは、説明する事項を宅地建物取引業法と同法の施行令・施行規則から並べてあり、契約ごとに、調べた状況と確認に使った資料を記録できます。AIに一覧を作らせるより、法令から作った一覧を使うほうが確実です。
始める前に決めておく3つのこと
AIの使い方で事故が起きるのは、ほとんどが「何を入れてよいか」「誰が確かめるか」を決めないまま使い始めたときです。
入れてよい情報と、入れない情報
入居者の氏名、電話番号、口座、滞納の事情は、外部の生成AIサービスに入れません。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が個人データを含む指示を生成AIに入力する場合について、利用目的の範囲内かを十分に確かめること、入力した内容が機械学習に使われないことなどを確かめることを挙げています。
この記事の下書きでも、名前は「入居者A」、部屋は見本の番号に置き換えました。家賃のお知らせでも、金額と期日だけを渡し、振込先の口座はAIが作った文にあとから人が書き足しています。
| 入れてよい(置き換えたもの) | 入れない |
|---|---|
| 見本の物件名・部屋番号 | 入居者・申込者の氏名、連絡先 |
| 間取り、面積、賃料などの物件の事実 | 口座番号、滞納の事情、勤務先 |
| 「入居者A」「オーナーB」のような呼び名 | 身分証や契約書の画像 |
の扱いで迷ったら、入れない側に倒しておけば間違いはありません。
誰が確かめてから外に出すか
下書きを誰が読み、何と照らすかを、書類ごとに決めておきます。
| 書類 | 確かめる人 | 照らすもの |
|---|---|---|
| 物件紹介文・広告 | 宅建士 | 物件台帳、図面、現地で確かめたこと |
| 重要事項説明 | 宅建士 | 法令、登記、役所の資料 |
| 更新・家賃・修繕の文書 | 事務担当 | 契約書、入金の記録、修繕の記録 |
| オーナー報告 | 管理担当 | 台帳の数字 |
AIに頼まない仕事
期限の計算、入金の突き合わせ、空室率の計算のように、毎回同じ手順で答えが一つに決まる仕事は、文章のAIに頼むより表や台帳で管理するほうが確実です。月次の報告の要約の下書きでは、渡した数字はそのまま写せていました。ただ、AIの文章には事実と違う内容がまじる (もっともらしい誤り)が起きることがあります。数字はAIに作らせず、台帳の数字を渡して文章にだけ整えてもらう、という分け方が向いています。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 「魅力的に」とだけ頼む | 渡していない日当たりや環境の言葉が入る | 「渡した事実だけ」「評価の言葉は使わない」と書く |
| 空室か確かめずに返信を送る | 申込が入った部屋を案内してしまう | 返信の前に物件台帳の状況を見る |
| 契約の種類を書かずに更新案内を頼む | 定期建物賃貸借の部屋に更新の案内を出してしまう | 依頼文に契約の種類と期間を書く |
| 本物の名前や口座を入れる | 個人情報が外部のサービスに渡る | 呼び名に置き換える。口座は人があとで書く |
| AIの一覧をそのまま重説に使う | 項目の抜けに気づかない | 宅建士が法令と資料で一つずつ確かめる |
AIに頼むより、アプリにしたほうが早い仕事
10の仕事を並べてみると、文章の下書きはAIが得意で、期限・金額・空室の管理は台帳のほうが得意、という分かれ方がはっきりします。
exbk.jp の不動産アプリのダッシュボードは、各アプリの記録を読み取り、更新の案内時期、未入金、追客、空室、修繕、重要事項説明の準備を1画面にまとめます。見本では「今日までに連絡する反響3件」「未入金・一部入金2件、残り85,000円」「空室2室、空室率16.7%」のように出ます。この数字をそのまま月次の報告の依頼に渡したのが、表の10番です。
こうしたアプリは、(Claude に指示してアプリを作れる道具)で作りました。自社の書類の並びや確認の順番は、毎日その書類を扱っている社員がいちばんよく知っています。社員が自分の業務のアプリを作れるようになる不動産会社向けの Claude Code 研修では、入居者・オーナー情報の扱い方から、物件台帳と反響・追客、契約更新と家賃の入金確認、退去立会いと修繕履歴まで、全5回で10のアプリを作りながら進めます。
退去立会いの記録の残し方は退去立会いのチェックリストに、その前提になる国土交通省のガイドラインは原状回復ガイドラインの要点に、内見の確認表は内見チェックリストにまとめています。表の6番と8番をAIに頼む前に、何を確かめる書類なのかをこちらで押さえておくと、下書きの直しが減ります。
まとめ
- 不動産会社のAI活用は、反響への返信や更新・家賃のお知らせなど、事務の書類の下書きから始める
- 見本データで10の書類仕事の下書きを作らせると、7つはそのまま土台に使えた。紹介文は頼み方しだい、内見の確認項目は店の確認表と合わせて使う形で、重要事項説明はたたき台止まりだった
- 「渡した事実だけで書く」「わからないところは空ける」と依頼文に書くと、根拠のない言葉が入りにくい
- 広告の表示(宅地建物取引業法第32条)と重要事項説明(同法第35条)は、宅建士が確かめてから出す
- 入居者の氏名や口座は外部のAIに入れない。期限・金額・空室は台帳で管理し、AIには文章だけを頼む
AIに下書きを頼むところから一歩進めて、自社の台帳や確認表を社員の手でアプリにしたい会社には、不動産の現場向けの Claude Code 研修があります。
