病棟の看護師と看護管理者に向けて、看護業務のどこに生成AI(文章を作るAI)を使えるか、どこから先は任せてはいけないかを、見本データで下書きを作らせた結果でまとめます。
結論から書くと、AIに頼んで役に立つのはメモを決まった書式に並べ直す作業です。判断にあたる部分は、どの書類でも看護師が書くことになります。患者を特定できる情報は外部のAIに入れません。
この記事を書くのに使った生成AI()に、架空の見本データで4種類の書類の下書きを作らせました。依頼文と、出てきた下書きと、看護師が直すべき点をそのまま載せます。
先に結論:看護業務でAIに頼めること、頼まないこと
| 書類仕事 | AIに頼めること | 看護師が決めること |
|---|---|---|
| 看護記録(SOAP) | メモをS・O・A・Pの欄に振り分けた下書き | Aの評価、Pの計画の中身 |
| 看護サマリー | 経過メモを項目ごとに短くまとめた下書き | 継続してほしい看護、注意点の重み |
| 申し送り | 長いメモを患者ごと・短文に整理 | 何を優先して伝えるか |
| インシデントの経過 | 走り書きを時刻順の文に整える | 影響度の区分、原因と対策 |
| 研修・委員会の資料 | 見出しや文の整理、案内文の下書き | 内容の正しさ、院内規程との整合 |
どの書類でも、AIの下書きは事実の並べ替えまでと考えておくと安全です。作らせた4件すべてで、元のメモにない言葉がどこかに足されていました。
書式そのものを整えるなら、exbk.jp の看護記録(SOAP)のアプリ(無料・登録なしで使える)のように、欄が分かれた入力画面を使うと、AIに頼む前にメモの抜けに気づけます。病棟の書式を看護師が自分でアプリにする方法は、病棟・クリニック向けの Claude Code 研修で扱っています。
下書きの作らせ方:架空の見本データだけを使った
下書きを作らせたのは、この記事を書いている2026年9月です。入れたデータは、すべて架空の見本です。実在の患者、病院、職員の情報は使っていません。
- 看護記録は、exbk.jp の看護・医療アプリに最初から入っている見本の記録(架空の病棟、架空の患者「【サンプル】見本 花子」)をもとにしました
- サマリー、申し送り、インシデントは、患者を特定できない形で新しく作った見本メモです
- 氏名は「Aさん」、年齢は「80代」のようにぼかし、生年月日や患者IDは入れていません

*画面の患者名・病棟名・記録内容は、すべて見本データです。*
看護記録(SOAP)の下書き
頼んだこと
夜間のメモを、SOAPの4つの欄に振り分けてもらいました。SOAPは、患者の話(S)、観察した事実(O)、看護師の考え(A)、これからの計画(P)に分けて書く記録の型です。
依頼文:次の看護師のメモを、S・O・A・Pの欄に振り分けてください。メモに書いていないことは足さないでください。
メモ(見本):6:10 トイレ前で床に座っているAさんを発見。本人「一人で行けると思った。痛いところはない」。見える範囲に傷なし。当直医に報告。夜間トイレに一人で行こうとすることが続いている。
出てきた下書き
S:「一人で行けると思った。痛いところはない」
O:6:10、トイレ前の床に座っているところを発見。見える範囲に外傷なし。当直医に報告。
A:夜間、一人でトイレに行こうとする行動が続いており、転倒の危険が高い状態と考えられる。
P:夜間の見守りを強化する。ナースコールの使用を促す。
看護師が直す点
| 下書きの箇所 | 何が起きたか | 直し方 |
|---|---|---|
| S、O | メモのとおり。「傷」が「外傷」に言い換わった | 病棟の書き方に合わせて戻すかを決める |
| A「転倒の危険が高い状態」 | メモにない評価をAIが足した | 看護師が自分の判断として書き直す |
| P「見守りを強化」「ナースコールの使用を促す」 | 指示していない計画をAIが作った | 看護計画に沿った内容に差し替える |
SとOの振り分けは、ほぼそのまま使えました。困るのはAとPです。「メモにないことは足さない」と頼んでも、AとPの欄を埋めようとして、もっともらしい評価と計画を書いてきます。
AとPは看護師の考えそのものです。AIには「S」と「O」だけを振り分けさせ、依頼文に「A と P は空欄のままにする」と書いておく頼み方が向いています。
看護サマリーの下書き
頼んだこと
転院のときに渡す看護サマリーの「入院中の経過」の欄を、箇条書きのメモから文章にしてもらいました。サマリーの項目の立て方は、看護サマリーの書き方にまとめています。
依頼文:次のメモを、看護サマリーの「入院中の経過」の欄に入れる文章にしてください。200字程度。メモにないことは書かないでください。
メモ(見本):80代女性。肺炎で入院、14日目。解熱し、食事は全粥を7割。歩行は歩行器で病棟内。夜間トイレ時に見守りが必要。本人は自宅に帰りたいと話す。
出てきた下書き
肺炎のため入院し、入院14日目の現在は解熱している。食事は全粥を7割程度摂取できている。歩行は歩行器を使用して病棟内を移動しているが、ふらつきがあるため夜間のトイレ時は見守りを行っている。本人は自宅への退院を希望しており、意欲的に過ごされている。
看護師が直す点
| 下書きの箇所 | 何が起きたか | 直し方 |
|---|---|---|
| 「ふらつきがあるため」 | メモにない理由をAIが足した | 見守りが必要な理由を、観察した事実で書く |
| 「意欲的に過ごされている」 | メモにない評価をAIが足した | 削るか、根拠になる本人の言葉を書く |
| 「自宅への退院を希望」 | 「帰りたいと話す」を要約した | 本人の言葉を「」で残すほうが伝わる |
文のつながりは読みやすく、字数もほぼ指定どおりでした。ただ、200字の中に元のメモにない言葉が2か所入っています。サマリーは転院先の看護師が読んでそのまま引き継ぐ書類なので、根拠のない一言が次の病院のケアに影響します。1文ずつ元のメモと見比べる作業は省けません。
申し送りの整理
頼んだこと
日勤から夜勤への申し送りのメモを、患者ごとに短くしてもらいました。
依頼文:次のメモを、患者ごとに2行以内の申し送りにしてください。数値と時刻はそのまま残してください。
メモ(見本):Bさん、14時に38.2度、当番医に報告済みで16時に再検37.6度。Cさん、明日9時から検査のため0時から絶食。Dさん、午後から落ち着かず点滴を触ろうとする、家族が19時に面会予定。
出てきた下書き
Bさん:14時 38.2℃ → 当番医に報告済み。16時 37.6℃。夜間も体温の推移に注意。
Cさん:明日9時から検査。0時から絶食。
Dさん:午後から落ち着かず、点滴を触ろうとする行動あり。家族が19時に面会予定。
看護師が直す点
| 下書きの箇所 | 何が起きたか | 直し方 |
|---|---|---|
| Bさん「夜間も体温の推移に注意」 | メモにない申し送り事項が足された | 指示や計画があるなら、それを書く |
| Cさん | メモのとおり | 絶食の範囲(飲水など)は病棟の指示を確かめて足す |
| Dさん | ほぼメモのとおり | 「落ち着かず」を、見た様子に書き換えるとよい |
申し送りは、4件のなかでいちばん手直しが少なく済みました。数値と時刻は崩れずに残っています。ただ、ここでもBさんの「注意」の一文が足されています。
受けた人が確認の印を付けるところまでを紙で回している病棟なら、exbk.jp の申し送りのアプリ(無料・登録なしで使える)で、勤務帯ごと・患者ごとに書いて確認の印を付ける流れを試せます。
インシデントの経過の整理
頼んだこと
インシデントレポートの「発生の経過」の欄を、走り書きから時刻順の文にしてもらいました。
依頼文:次のメモを、時刻順の経過の文にしてください。原因や対策は書かないでください。
メモ(見本):21:30配薬時、Eさんの眠前薬をFさんのトレイに置いた。21:35 Fさんに渡す前に名前を読み上げて気づいた。服用なし。リーダーに報告。
出てきた下書き
21:30、配薬の際、Eさんの眠前薬を誤ってFさんのトレイに置いた。21:35、Fさんに渡す前に名前を読み上げて確認した際に誤りに気づいた。Fさんは服用していない。同時刻にリーダー看護師に報告した。
看護師が直す点
| 下書きの箇所 | 何が起きたか | 直し方 |
|---|---|---|
| 「同時刻に」 | メモにない時刻をAIが決めた | 報告した時刻を確かめて書く |
| 「リーダー看護師」 | 「リーダー」を言い換えた | 院内の呼び方に合わせる |
| 原因・対策 | 頼んだとおり書かなかった | 看護師と部署で話し合って書く |
「原因や対策は書かない」と先に断ると、AIはそこに踏み込みませんでした。書かせないことを依頼文に入れておくと、手直しが減ります。影響度の区分をどう決めるかは、インシデントの影響度レベルで整理しています。
4件の下書きからわかったこと
| 書類 | 使えた部分 | 毎回直した部分 |
|---|---|---|
| 看護記録(SOAP) | SとOの振り分け | AとPに足された評価と計画 |
| 看護サマリー | 文のつながり、字数 | 根拠のない理由と評価 |
| 申し送り | 数値と時刻を残した短文化 | 足された注意書き |
| インシデントの経過 | 時刻順の文章化 | AIが決めた時刻、呼び方 |
共通していたのは、AIは空いている欄や文の流れを埋めようとして、メモにない言葉を足すことです。AIがもっともらしい誤りを書くことを と呼びます。看護の書類では、この「もっともらしい一言」が次の勤務や次の病院に引き継がれてしまいます。
手直しを減らすには、依頼文に次のことを書いておきます。
- 「メモにないことは書かない」と最初に書く
- 看護師が書く欄(A、P、原因、対策)は、はっきり「書かない」「空欄にする」と頼む
- 数値と時刻は「そのまま残す」と書く
指示の出し方を工夫して結果をよくすることを と呼びますが、病棟で覚えておくのはこの3つで足ります。
もう一つわかったのは、AIに頼む前の書式のほうが効くことです。S・O・A・Pの欄が最初から分かれていれば、看護師はメモの段階で事実と考えを分けて書けます。病棟の書式を自分たちの手でアプリにしたい場合は、看護師が自分で書類アプリを作る Claude Code 研修があります。
AIに任せないこと、患者情報の扱い
ここは、どの病棟でも使う前に必ず押さえてください。
診断・看護判断・医師の方針はAIにさせない
AIの下書きは文章の整理です。病気の見立て、医師の方針、看護上の問題の判断、アセスメント、看護計画の中身は、医師と看護師が決めます。AIが書いた評価や計画の文は、正しそうに見えても採用しません。記録として残す文は、書いた看護師が責任を持てる内容だけにします。
患者情報を外部のAIに入れない
患者の氏名、患者ID、生年月日、住所、電話番号、顔写真など、患者を特定できる情報は、外部のAIサービスに入れません。病名と年齢と入院日が組み合わさるだけで、病棟の中では誰のことか分かってしまう場合もあります。この記事の見本でも、「Aさん」「80代」のように、特定できない形にしています。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力することについて、事業者と利用者への注意喚起を出しています。医療情報を扱うシステムについては、厚生労働省が「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を公表しています。
院内の規程と情報システム担当に確かめる
どのAIサービスなら使ってよいか、何を入れてよいかは、病院ごとに決まりが違います。使い始める前に、次を院内の規程と情報システム担当に確かめてください。
| 確かめること | 例 |
|---|---|
| 使ってよいサービス | 院内で契約したもの以外を使ってよいか |
| 入れてよい情報 | 匿名化したメモならよいか、どこまでぼかすか |
| 使ってよい端末 | 病棟の端末か、私物のスマートフォンは不可か |
| 記録への反映 | AIの下書きを電子カルテに貼るときの手順 |
始める前に病棟で決めること
いきなり看護記録で使うより、患者情報を含まない仕事から始めるほうが安全です。
- 研修や委員会の案内文、マニュアルの言い回しの整理から試す
- 患者情報を入れない匿名化の書き方を、見本で練習する
- 申し送りのように、看護師が必ず読み直す書類で試す
- 看護記録やサマリーに使うのは、院内のルールが決まってから
病棟全体のデジタル化の順番は、病棟のDXの進め方にまとめています。
まとめ
- 看護業務でAIに頼みやすいのは、メモを書式に並べ直す、短く整える、時刻順にする、といった文章の整理
- 見本データで4件試すと、どれも下書きは早く出たが、毎回メモにない言葉が足された。1文ずつ元のメモと見比べる
- 看護師が書く欄(A、P、原因、対策)は、AIに「書かない」と頼むと手直しが減る
- 診断・看護判断・医師の方針はAIにさせない。患者を特定できる情報は外部のAIに入れず、院内の規程と情報システム担当に確かめてから使う
看護サマリーや申し送りの書式を、病棟の看護師が自分でアプリにする方法は、病棟・クリニック向けの Claude Code 研修で学べます。研修で使うのは という、日本語で指示するとアプリを作ってくれる道具です。
