インシデントレポートを書くたびに、影響度の欄で手が止まる。新人のころに一度説明を受けたきりで、3aと3bの違いを後輩に聞かれると言葉に詰まる。この記事は、そういう看護師と、報告を取りまとめる医療安全の担当者に向けて書きました。

区分の中身は、一次資料を実際に開いて確かめた範囲だけで、原文に沿って紹介します。ある出来事がどのレベルに当たるかの判断や、診察・処置についての判断は書きません。そこは自院の定義と、医療安全の担当者や医師が受け持つところです。

先に結論:影響度レベルは「患者への影響」の目盛り。定義は病院ごとに違う

影響度レベルは、起きたことが患者にどのくらい影響したかを段階で表す物差しです。報告した人を評価するためのものではありません。

疑問答え
よく使われる区分は国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類。レベル0〜5で、3と4はaとbに分かれる
全国共通の基準はあるかない。日本医療機能評価機構の報告の仕組みは別の言葉で分けていて、病院ごとの定義も違う
3aと3bの違いどちらも一過性。原文では3aが「簡単な」処置や加療、3bが「濃厚な」処置や加療
アクシデントとの境目協議会の文書には書かれていない。自院の規程に従う
集めた報告の使い方月別・種類別・影響度別に数え、どこに対策が要るかを話し合う材料にする

記録と集計を1つにまとめたい場合は、exbk.jp のインシデントレポートが使えます。無料・登録なしで、影響度の選択肢は協議会の影響度分類に沿っています。画面の中身は後半で説明します。

影響度レベルは何のために付けるのか

インシデントレポートには、たいてい「患者への影響度」を選ぶ欄があります。ここで選ぶのが影響度レベルです。付ける目的は主に3つあります。

  • 同じ種類の出来事でも、患者への影響の大きさで分けて見られるようにする
  • 影響の大きい出来事を、すぐに上に報告して対応を始められるようにする
  • 月ごと、部署ごとに数えて、傾向を比べられるようにする

レベルは「どれだけ悪いことをしたか」を測るものではありません。「患者にどれだけ影響が出たか」の目盛りです。病棟でこの点を共有しておくと、報告する側の気持ちの負担が軽くなります。

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協議会の影響度分類:レベル0〜5の中身

病院の医療安全の手引きでよく引用されるのが、国立大学医学部附属病院医療安全管理協議会の総会(平成14年10月31日・11月1日開催)で承認された「インシデントの影響度分類」です。協議会が公開している文書を開いて確かめた内容を、表にしました。「内容」の欄は原文に沿った要旨で、一部の語を言い換えています。正確な文言は出典の文書で確かめてください。

レベル障害の継続性障害の程度内容(要旨)
レベル0エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが、患者には実施されなかった
レベル1なし患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)
レベル2一過性軽度処置や加療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などの必要性は生じた)
レベル3a一過性中等度簡単な処置や加療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)
レベル3b一過性高度濃厚な処置や加療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者の入院、骨折など)
レベル4a永続的軽度~中等度永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
レベル4b永続的中等度~高度永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴う
レベル5死亡死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)
その他(文書では区分名のみで、内容の記載はありません)

出典:インシデントの影響度分類(国立大学医学部附属病院医療安全管理協議会)

3aと3b、4aと4bは「程度」で分かれる

表は2つの軸でできています。1つは障害の継続性で、影響が一時的(一過性)か、残る(永続的)か。もう1つは障害の程度で、軽度・中等度・高度に分かれます。

レベル3と4がaとbに分かれているのは、同じ「一過性」や「永続的」の中で程度の差を分けるためです。3aと3bはどちらも一過性で、原文では3aが「簡単な」処置、3bが「濃厚な」処置と書き分けられています。

括弧の中の例(消毒、湿布、人工呼吸器の装着など)は、区分をイメージするための例示です。括弧の例に当てはめれば機械的に決まる、というものではありません。迷ったら、自院の手引きと担当者に確かめてください。

文書に書かれていないこと

この文書は影響度の区分表なので、次のことは書かれていません。

  • どのレベルからを「アクシデント」と呼ぶか
  • どのレベル以上を、いつまでに、誰に報告するか

どちらも病院ごとに規程で決めています。よその病院の資料で見た境目を、自院にそのまま当てはめないでください。

日本医療機能評価機構の報告項目は、別の言葉で分けている

全国の医療機関から事例を集めている仕組みに、日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集等事業」があります。報告入力項目(2025年4月1日更新)を開いて確かめると、協議会の「レベル0〜5」とは違う言葉で程度を分けていました。

医療事故情報の「健康被害の程度」

医療事故情報の報告入力項目には「健康被害の程度」という欄があり、選択肢は次のとおりです。

選択肢(原文どおり)
死亡
障害残存の可能性がある(高い)
障害残存の可能性がある(低い)
障害残存の可能性なし
障害なし
不明

あわせて、事例が起きたあとに追加で行った対応の程度を「濃厚」「軽微」「なし」「不明」から選ぶ欄もあります。

ヒヤリ・ハット事例の2つの欄

ヒヤリ・ハット事例の報告入力項目は、次の2つの欄に分かれています。

選択肢(要旨)
誤った医療行為または管理の実施の有無医療行為または管理に誤りがあったが、患者に実施されなかった/誤った医療行為または管理が患者に実施された
仮に患者への影響が大きくなった場合の事例の程度死亡もしくは重篤な状況に至ったと考えられる/濃厚な処置などが必要であったと考えられる/軽微な処置などが必要であったと考えられる/処置などは不要であったと考えられる(正確な文言は出典で確認)

2つ目の欄で選ぶのは、実際に起きた影響ではなく、「仮に影響が大きくなっていたら」という見込みです。実際に起きた結果で分ける協議会の影響度分類とは、ここが違います。

出典:医療事故情報収集等事業 関連文書(日本医療機能評価機構)

3つの物差しを並べると

国立大学附属病院医療安全管理協議会日本医療機能評価機構(医療事故情報)日本医療機能評価機構(ヒヤリ・ハット)
区分の名前レベル0〜5(3・4はa/b)健康被害の程度実施の有無/仮に影響が大きくなった場合の程度
何で分けるか実際の障害の継続性と程度実際の健康被害の程度患者に実施されたか、と、影響が大きくなった場合の見込み
段階の数0,1,2,3a,3b,4a,4b,5とその他6(不明を含む)2と4

同じ「影響の大きさ」でも、出典によって区分の数も言葉も違います。院内の報告書は自院の定義で書き、全国の事業へ報告するときはその事業の項目で書く。場面ごとに物差しが違うと覚えておけば、混乱しにくくなります。

よくある失敗:レベルを選ぶときの書き方

レベルの当てはめ方は、病院の定義と担当者の判断に任せる部分です。ここでは、どの定義を使っていても共通する、報告書の書き方の注意だけを挙げます。

レベルだけ書いて、根拠の事実がない

レベルだけが書かれていて状況の欄が短いと、あとで読む人は妥当かどうかを確かめられません。何が起き、患者にどんな変化があり、誰に報告して何をしたかを、事実として書きます。

見本(架空):6:10、トイレ前で床に座っている患者を発見。本人は「一人で行けると思った」と話した。ナースコールは押されていなかった。その場で声をかけ、当直医に報告した。

あとで状況が変わっても、直した記録が残らない

報告を出した時点と数日後とで、分かっていることが変わる場合があります。誰がどのようにレベルを見直すかは、病院の手順に従います。書き換えた場合は、いつ、なぜ変えたかが分かるようにしておくと、集計のときに混乱しません。

迷ったまま一人で決める

どちらのレベルか迷うときは、迷っていることを報告書に書き、上長や医療安全の担当者に相談します。低く書いて報告を軽く見せることも、高く書いて大ごとにすることも、集計をゆがめます。

報告書の集計:月別・種類別・影響度別に数える

報告書は1枚ずつ読むだけでは傾向が見えません。数えて並べると、どこに対策が要るかを話し合いやすくなります。

基本の3つの切り口

切り口数え方見えてくること
月別発生日の月ごとに件数を数える件数の増減、季節や人の入れ替わりの時期との重なり
種類別転倒・転落、薬剤、チューブ類などの種類ごとに数える多い種類、前の月から増えた種類
影響度別自院の影響度レベルごとに数える影響の大きい報告の件数、低いレベルの報告がきちんと集まっているか

3つを掛け合わせると、「今月は転倒・転落が多いが、ほとんどは影響度の低い報告」といった見方ができます。

集計表の見本

次の表は書き方を示すための見本の架空データで、実在の病院の数字ではありません。

種類\影響度(見本)レベル0レベル1レベル2レベル3a
転倒・転落02215
薬剤32005
チューブ類11002
452112

多いものから順に並べ、件数の多い少数の種類に注目する見方は、の考え方として知られています。件数の多い種類から話し合えば、限られた会議の時間を振り向けやすくなります。

数えるときに気をつけること

件数が増えたからといって、安全が悪くなったとは限りません。報告しやすい雰囲気になり、これまで出ていなかった報告が集まるようになった場合もあります。

月の途中で定義を変えるのも避けます。影響度や種類の区分を変えると、前の月と比べられなくなります。変えるなら、いつから変えたかを記録しておきます。

影響度の高い報告は、件数で見ずに1件ずつ振り返ります。集計は傾向を見る道具なので、影響の大きい出来事を件数に埋もれさせないようにします。

そして、部署や人を責める材料にしないこと。集計は仕組みの改善に使うものです。個人の報告件数を並べて比べると、報告が減る方向に働きます。

表計算ソフトで数える場合

表計算ソフトなら、1行に1件の報告を入れ、「発生日」「種類」「影響度」の列を作っておくと、あとで月別・種類別・影響度別に数えられます。種類と影響度は、書く人によって言葉が揺れないよう、選択肢から選ぶ形にしておくと集計が楽です。

exbk.jp のインシデントレポートで、記録と集計を1か所に

表計算ソフトの列の作り方を、そのまま画面にしたのが exbk.jp のインシデントレポートです。無料・登録なしで使えます。発生日時・場所・種類・患者への影響度・状況・対策を記録して印刷でき、月を選ぶと種類別・影響度別の件数を集計して、CSV(表計算ソフトで開ける形式)で書き出せます。

exbk.jp のインシデントレポートの画面。表示しているのは架空の病棟の見本データです
exbk.jp のインシデントレポートの画面。表示しているのは架空の病棟の見本データです

*画面は見本データを表示した状態です。病棟名・患者・職員はすべて架空です。*

影響度の選択肢は、国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類に沿っています。画面にも、院内で別の区分を使っている場合は院内の区分に従うよう書いてあります。自院の定義と違うなら、この選択肢をそのまま使わず、自院の書式に合わせてください。

ログインしていない間、入力した内容はその端末のブラウザの中にだけ保存され、サーバーには送られません。患者の欄は、画面の案内どおり、院内の決まりに沿ってイニシャルや部屋番号で書く使い方を想定しています。

報告書の項目や集計の切り口は、病院ごとの決まりを知っている現場の人がいちばんよく分かっています。自院の報告書の書式に合わせたアプリを職員が自分で作れるように、exbk.jp では看護・医療向けの Claude Code 研修を行っています。このインシデントレポートも (文章で指示するとアプリを作ってくれるAIの道具)で作りました。

患者情報をAIや外部サービスに入れない

報告書の文章を整えたり、集計をまとめたりするときに、のような生成AI(文章を自動で作るサービス)を使いたくなる場面があるかもしれません。ここは特に気をつけてください。

個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力することについて注意を呼びかけています。インシデントの報告には、患者の状態や経過など、特に慎重に扱うべき情報が含まれます。

  • 患者の氏名、ID、生年月日、部屋番号とベッドの組み合わせなど、個人が分かる情報を院外のAIや外部サービスに入れない
  • 氏名を消しても、日付・病棟・経過の組み合わせで人が分かることがある
  • 使ってよいサービスと使い方は、病院の情報管理の決まりに従い、分からなければ情報管理の担当部署に確かめる

AIに頼むとしても、「一般的な報告書の書き方の見本を作って」のように、実際の事例を含まない形にとどめるのが無難です。

まとめ

  • 影響度レベルは、患者への影響の大きさを段階で表す物差し。人を評価するためのものではない
  • 協議会の影響度分類はレベル0〜5(3と4はa/b)。日本医療機能評価機構の報告項目は別の言葉で分けている
  • アクシデントとの境目や報告の手順は病院ごとに違う。必ず自院の定義に従う
  • 報告書は月別・種類別・影響度別に数えると、対策を話し合う材料になる
  • 患者が分かる情報は、院外のAIや外部サービスに入れない

インシデントの集計は、病棟の書類仕事の一部です。ほかの書類も含めた見直し方は病棟の医療DXの進め方にまとめました。報告書の書式や集計表を自分たちの手でアプリにしたいときは、Claude Code 研修の中身も見てみてください。