月末や病棟会議の前になると、インシデントの集計表、研修の受講記録、在庫表、勤務表を順に開いて、数えて、転記する。この記事は、その作業を受け持っている看護管理者や病棟の事務担当の方に向けて書きました。

医療DXという言葉は、電子カルテや病院全体のシステムの話として語られることがほとんどです。病棟の判断だけでは動かせない話なので、読んでも明日の仕事は変わりません。ここでは国の取組を短く押さえたうえで、病棟の中で決めて始められる範囲だけを扱います。

記事に出てくる病棟名・職員名・件数はすべて見本で、実在の病院の話ではありません。

先に結論:病棟の医療DXは「数え直す手間」を減らすことから

病棟でできる医療DXは、毎月どこかの表を開いて数えている数字を、1画面に集めることです。電子カルテの入れ替えのような話とは別に、病棟の中で話し合って始められます。

疑問答え
国の医療DXとは全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DXの3つが柱。病院全体や地域の話
病棟で集める数字インシデントの件数、研修の未受講、発注点を下回った物品、夜勤の回数と時間、未確認の申し送りの5つ
最初に決めること患者の氏名・ID・生年月日を外部のサービスに入れないこと。院内の規程と情報システム担当に確かめること
最初に移す書類患者情報を含まない在庫の表。1か月に1つずつ広げる
数字の使い方良し悪しを決める答えではなく、会議で話し合うきっかけ

この5つの数字を1画面に並べた見本が、exbk.jp の看護・医療アプリのダッシュボードです。無料・登録なしで、見本データのまま画面を触れます。後半で、画面のどこに何が出るかを表にしました。

国の「医療DX」は何を指しているのか

言葉の意味から押さえます。厚生労働省は医療DXを、次のように説明しています。

保健・医療・介護の各段階で発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること(厚生労働省「医療DXについて」の説明を要約)

国は令和4年10月に「医療DX推進本部」を設け、この取組を進めています。柱は3つあります。

主な中身病棟から見た近さ
全国医療情報プラットフォームの創設電子カルテ情報共有サービス、オンライン資格確認病院全体・地域の話
電子カルテ情報の標準化等標準型電子カルテ、電子処方箋病院の情報システムの話
診療報酬改定DX共通算定モジュール、標準様式のデータ構造化医事課・システム会社の話

どれも病院の外とつながる仕組みです。(診療の記録をコンピューターで管理する仕組み)や、(電子カルテ・会計・予約などを束ねた院内の仕組み)の入れ替えは、病棟の判断では進められません。

病棟の大きさに置き換えると

定義にある「共通化・標準化」を病棟の大きさに置き換えると、同じ数字を毎回数え直さなくて済むように、記録の置き場所と形をそろえることになります。

病棟には、電子カルテとは別の場所に置かれている書類がたくさんあります。インシデント・アクシデントの報告書と集計表、院内研修の受講記録、物品の在庫表と発注の控え、夜勤の回数や時間を確かめる勤務表、申し送りのメモや確認のサインです。紙のものもあれば、別々の表計算ファイルに分かれているものもあります。置き場所をそろえる話なら、病棟の中で決められます。

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病棟で1画面に集めたい5つの数字

病棟会議や月の振り返りでよく使う数字を、元の書類ごとに並べると次のようになります。

見たい数字いつも見ている書類集めると分かること
今月のインシデント件数と、対策が済んでいない件数報告書、集計表振り返りが止まっている件がないか
研修の未受講がある職員研修の受講記録年度内に受講を案内すべき人
発注点を下回った物品在庫表発注のし忘れがないか
今月の夜勤の回数・時間・最長連続日数勤務表夜勤が一部の人に偏っていないか
未確認の申し送り申し送りのメモ読まれずに残っている連絡がないか

数字は話し合いのきっかけで、答えにはなりません。インシデントの件数が多い月は、報告しやすい雰囲気ができた結果かもしれません。件数だけで良し悪しを決めず、中身を読んで話し合う入口として使います。

見本の画面では、どこに何が出るか

看護・医療アプリのダッシュボードは、この5つの数字を1画面にまとめたものです。

看護・医療アプリのダッシュボード。見本データの架空の病棟で、今月のインシデント、未確認の申し送り、研修の未受講、発注点以下の物品、今月の勤務表、5S点検の得点率が並んでいる
看護・医療アプリのダッシュボード。見本データの架空の病棟で、今月のインシデント、未確認の申し送り、研修の未受講、発注点以下の物品、今月の勤務表、5S点検の得点率が並んでいる

*画面はすべて見本データです。病棟名・職員名・件数は架空のもので、実在の病院とは関係ありません。*

執筆にあたって本番の画面を開いたところ、見本データの状態では次の項目が並んでいました。

画面の欄見本データで表示されていた内容
今月のインシデント7件(うち対策が済んでいないもの2件)。影響度のレベル別の件数と、日付・分類・対応の状況の一覧
未確認の申し送り1件。日勤から準夜勤への申し送りの件数と、重要の件数
研修の未受講がある職員6人。職員ごとに未受講の研修名
発注点以下の物品3品。品名・在庫・発注点・不足数
今月の勤務表12人。夜勤の回数・時間・最長連続日数
5S点検部署ごとの最新の得点率

数字は、同じアプリの「インシデント」「研修」「在庫」「勤務表」「申し送り」などの画面に入力した記録を読み取って集計しています。ダッシュボードのために別の表を作る必要はありません。

画面の上部にある「見本を消して白紙から使う」ボタンを押すと、見本の数字が消え、自分の病棟の記録を入れ始められます。インシデントの記録や申し送りなど、ほかの画面は看護・医療アプリの一覧から開けます。

どの欄を並べるか、どの順で見るかは、病棟ごとに違って当然です。exbk.jp では、看護師や事務の方が自分の病棟の書類をアプリにできるようになる看護・医療向けの Claude Code 研修を行っています。 は、文章で指示するとアプリを作ってくれるAIの道具で、この看護・医療アプリもそれで作りました。

始める前に決めること:患者情報を外に出さない手順

病棟の書類をデジタルにするとき、最初に決めるのが患者情報の扱いです。生成AI(文章を自動で作るAI)や、インターネット上の外部サービスを使う場合は特に注意が要ります。

厚生労働省は、医療機関が医療情報システムを安全に使うための「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を出しています。令和8年6月に第7.0版が公表され、概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編・保守委託機関編の5つに分かれています。院内の規程はこうした国の指針をふまえて作られているので、まず院内の決まりを確かめます。

この記事では、次の順番をおすすめします。

手順すること理由
1. 入れない情報を決める氏名・患者ID・生年月日・住所・病室番号と組み合わせた情報は、生成AIや外部サービスに入れない一度外に出た情報は取り戻せないため
2. 見本データで試す架空の病棟・架空の職員名で、画面の使い勝手だけを確かめる使い方を覚える段階では本物のデータは要らないため
3. 院内の規程を読む私物の端末、外部のサービス、データの持ち出しについての決まりを確かめる病院ごとに決まりが違うため
4. 情報システム担当に相談する使いたいサービス、置くデータの種類、使う端末を伝えて判断をあおぐネットワークや端末の管理は病棟だけでは決められないため
5. 入れるのは件数や物品名から患者を特定しない情報(件数、物品名、研修名)から始める万一の影響を小さくするため

生成AIには、もっともらしい間違いを書くという弱点もあります。AIが作った集計や文章はそのまま報告書に使わず、必ず人が元の記録と照らし合わせます。

個人情報の扱いの基本はで決まっていますが、病院での具体的な運用は院内の規程に従います。迷ったら、入れない側に倒してください。

病棟で始める順番:1か月に1つずつ

全部の書類を一度に移すと、慣れるまで紙とアプリに二重に書く期間が長くなります。1か月ごとに1つずつ広げるのが無理のない進め方です。

時期すること見るポイント
1か月目見本データのまま、病棟の数人で画面を触るどの数字が会議で使えそうか
2か月目在庫の表だけを移す(患者情報を含まないため)発注のし忘れが減ったか、入力が負担でないか
3か月目研修の受講記録を移す年度末に慌てて未受講者を探さずに済むか
4か月目以降勤務表、インシデントの集計、申し送りの確認へ広げる院内の規程と照らして、置いてよい情報か

どの段階でも、「その書類は誰が入力し、誰が見るのか」を先に決めておきます。そうしておくと、入力が止まりにくくなります。

紙や表計算ファイルのほうが有利な点

今の書類をやめる必要はありません。比べてみて、置き換える価値があるものから移します。

比べる点紙・別々の表計算ファイル1画面にまとまる形
月末の集計それぞれ開いて数える入力した時点で数が出る
見落とし数える人の注意力に頼る発注点以下、未受講などが一覧で出る
共有ファイルの場所を知っている人だけ同じ画面を見られる
始めやすさすでに慣れている最初は入力の手順を覚える必要がある
情報の管理院内の決まりに沿っている置き場所について院内の確認が必要

「始めやすさ」と「情報の管理」は、今の紙や表計算ファイルのほうが有利です。ここを軽く見て移すと、現場で使われなくなります。

よくある失敗:ダッシュボードに任せてはいけないこと

ダッシュボードは、書類に書かれた件数や時間を集めて見せるものです。次の使い方はしません。

  • 患者さんの状態の見立てや、看護・医療の判断
  • 数字だけで職員を評価すること(夜勤の偏りは、希望や事情も含めて話し合う)
  • インシデントの原因の決めつけ(件数は振り返りの入口)

医療の判断は、これまでどおり医師・看護師が院内の手順に沿って行います。書類の集計を楽にして、話し合いや患者さんに向き合う時間を少しでも増やすのが目的です。

病棟会議で、どの順に画面を見るか

1画面にまとまっても、見る順番が決まっていなければ、会議で画面を眺めて終わります。月1回の病棟会議で使う場合の見本の順番を示します。

順番画面で見る欄会議で話し合うこと
1未確認の申し送り残っている連絡を、その場で誰が確認するか決める
2今月のインシデント対策が済んでいない件の担当と期限を確かめる
3研修の未受講受講の案内をいつ、誰から出すか決める
4発注点以下の物品発注済みか、発注点そのものを見直すか話し合う
5今月の夜勤回数や連続日数の偏りを、本人の希望や事情と合わせて確かめる

申し送りを最初に置いたのは、未確認のまま残ると次の勤務に響きやすいからです。インシデントは、件数より「対策が済んでいない件がいくつあるか」を先に見ると、担当と期限の話に進めます。

会議で決まったことを各画面に書き戻しておけば、翌月はその続きから話せます。議事録を別に作っている病棟なら、ダッシュボードの数字は書き写さず、「何を決めたか」だけを残すと転記が減ります。

事務担当の方にとっては、月末に書類を集めて回る作業が減るのがいちばんの違いです。看護管理者から「今月の未受講は何人?」と聞かれても、表を探さずにダッシュボードを開いて答えられます。

まとめ

  • 国の医療DXは、全国医療情報プラットフォーム、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DXの3つが柱で、病院全体や地域の取組です。
  • 病棟では、インシデント・研修・在庫・夜勤・申し送りの5つの数字を1画面に集めるところから始められます。
  • 患者の氏名・ID・生年月日は外部のサービスに入れず、見本データで試し、院内の規程と情報システム担当に確かめます。
  • 移すのは患者情報を含まない在庫の表から。1か月に1つずつ広げます。
  • 数字は判断の答えではなく、会議で話し合うきっかけとして使います。

どの数字を会議で見たいか、どの書類から移すと楽になるかは、病棟の人がいちばんよく知っています。その知っていることを自分の手で形にしたい方は、看護・医療向けの Claude Code 研修の中身をのぞいてみてください。