進化する日本の医療DX - 最新動向と2026年に向けたロードマップ

医療DXのイメージ画像

進化する日本の医療DX - 最新動向と2026年に向けたロードマップ

1. はじめに:日本の医療におけるデジタル化の現状

日本の医療を取り巻く環境は、少子高齢化、医師不足、そして新型コロナウイルス感染症の流行を経て大きく変化しています。これらの課題に対応するため、医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展しています。

政府は2022年に「医療DX令和ビジョン2030」を策定し、医療情報のデジタル化と利活用を通じて、医療の質の向上、医療従事者の負担軽減、患者の利便性向上を目指しています。

出典:厚生労働省「医療DXについて」(2024年5月16日更新)
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html

2. 医療DX令和ビジョン2030の概要と3つの柱

「医療DX令和ビジョン2030」は、2030年に目指すべき医療の姿として、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化・共有、診療報酬改定DXの3つの柱を掲げています。

2-1. 全国医療情報プラットフォームの創設

全国医療情報プラットフォームは、医療機関間での患者情報の共有を可能にするシステムです。2023年の設計・開発を経て、2025年度中の運用開始を目指しています。このプラットフォームにより、患者は異なる医療機関を受診する際も、過去の診療情報を医師と共有できるようになります。

出典:富士通「医療DX令和ビジョン2030のこれまでとこれから~2026年への備えとは?」(2024年5月30日)
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/healthcare/iryo-dx-reiwa-vision2030/column/20240530-02.html

2-2. 電子カルテ情報の標準化及び標準型電子カルテの開発

現在、各医療機関で使用されている電子カルテシステムはベンダーごとに仕様が異なり、情報共有の障壁となっています。厚生労働省は電子カルテ情報の標準化を進め、2023年8月30日の第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームでも、標準化に向けた取り組みが報告されました。

出典:厚生労働省「第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム 資料2-2 電子カルテ情報の標準化について」(2023年8月30日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_210261_00003.html

2-3. 診療報酬改定DX

診療報酬改定DXでは、医療機関のデジタル化を促進するための報酬体系が整備されています。2024年度診療報酬改定では、「医療DX」がキーワードの一つとなり、医療機関のデジタル化を評価する仕組みが強化されました。

出典:富士通「医療DX令和ビジョン2030のこれまでとこれから~2026年への備えとは?」(2024年5月30日)
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/healthcare/iryo-dx-reiwa-vision2030/column/20240530-02.html

3. 医療DXの具体的な進展状況

3-1. 電子カルテ情報共有サービス

電子カルテ情報共有サービスは、医療機関間で患者の診療情報を安全に共有するためのシステムです。2024年中に医療機関等での運用テストを実施し、2025年度中に運用開始予定です。厚生労働省は2024年11月8日に電子カルテ情報共有サービスのサイトをオープンし、医療機関向けの手順書・マニュアル、利用申請、補助金申請等の情報を公開しています。

出典:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス」(2024年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/denkarukyouyuu.html

3-2. 医療DX推進体制整備加算の見直し

2024年10月から、医療機関におけるデジタル化を促進するための「医療DX推進体制整備加算」が一部見直されます。従来は初診時に限り診療報酬に8点の加算が可能でしたが、2024年10月からはマイナ保険証の利用率によって3区分に分けられ、利用率が高いほど加算点数が高くなります。

2024年10月以降の医療DX推進体制整備加算は、マイナ保険証の利用率に応じて3区分となり、2025年4月以降の利用率基準については年内をめどに検討される予定です。

出典:ウィーメックス株式会社「医療DX推進体制整備加算が2024年10月から見直しに。算定要件から取得方法まで詳しく解説」(2024年)
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/medicalfees-medical-promotion-system

3-3. マイナ保険証の普及促進

マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)の普及促進が進められています。しかし、2023年12月には、マイナンバーと紐付けられた保険証情報が誤っているケースがおよそ139万件にのぼっていると報じられました。政府はこの誤りを認め、確認作業を進めています。

出典:ドクタービジョン「医療DXの現状と展望―「令和ビジョン2030」の概要と課題」(2024年)
https://www.doctor-vision.com/column/trend/healthcare-dx.php

4. 医療AIの最新事例

4-1. 内視鏡AI診断

国立がん研究センターは、大腸ポリープを検出するAIの開発に成功し、日常診療の内視鏡レポートから自動収集するシステム構築も実現しています。このシステムにより、AIの学習に必要なデータ収集が効率化され、より精度の高い診断支援が可能になります。

出典:国立がん研究センター 東病院「大腸ポリープを検出するAIを生成する為のデータを日常診療の内視鏡レポートから自動収集するシステム構築に成功」(2022年6月24日)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/endoscopy/030/20220624145027.html

4-2. 医療AI活用の具体例

厚生労働省が指定するAIを導入すべき6つの重点領域(①ゲノム医療、②画像診断支援、③診断・治療支援、④医薬品開発、⑤介護・認知症、⑥手術支援)において、様々な取り組みが進んでいます。特に画像診断支援分野では、大腸ポリープを一瞬で発見する内視鏡AIやがんのリンパ節への転移を見つける病理AIなど、実用化が進んでいます。

出典:デロイトトーマツ「医療分野におけるAI活用について」
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/life-sciences-and-healthcare/articles/hc/hc-medical-ai-trends.html

出典:NHK クローズアップ現代「医療AI活用のメリット・デメリットとは 課題と今後の可能性」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4871/

5. 遠隔医療・オンライン診療の現状と展望

5-1. オンライン診療の普及状況

日本のオンライン診療の普及率は、2023年時点で約15%まで増加しています。しかし、他の主要国に比べると依然として低い水準にあります。普及が進まない理由の一つとして、診療報酬の水準が低く設定されていることが指摘されています。

出典:YADOC「【2023年】オンライン診療の普及率はどのくらい?医療機関での導入数や割合の推移」(2023年7月6日)
https://www.yadoc.jp/blog/45

5-2. オンライン診療推進に向けた基本方針

2023年6月に「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」が発表されました。この方針では、オンライン診療の質の確保と安全性を担保しつつ、普及を促進するための具体的な施策が示されています。

出典:ニコムズ「遠隔医療の魅力と課題:日本の現状と展望」(2024年8月2日)
https://nicoms.nicho.co.jp/business/contents/20240802-03/

6. 医療DXがもたらすメリット

6-1. 医療従事者の負担軽減

医療DXの推進により、医療従事者の業務効率化が期待されています。特に2024年4月からの医師の時間外労働規制への対応や、少子高齢化による医療機関の人材不足への対策として、DXによる業務効率化は重要な解決策となっています。

出典:ウィーメックス株式会社「医療DXとは?メリット・課題点と推進のポイントを紹介」(2023年7月14日)
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/management-medical-dx

6-2. 患者の利便性向上

マイナンバーカードと保険証情報の連携による受付の効率化や、医療情報の共有による重複検査の回避など、患者にとっても多くのメリットがあります。また、遠隔医療・オンライン診療の活用により、通院負担の軽減も期待されています。

出典:ワークフロー総研「医療DXとは?メリット・デメリットや政府の動き、推進の第1歩におすすめのシステムを紹介!」
https://www.atled.jp/wfl/article/39313/

7. 医療DX推進の課題と対策

7-1. データの正確性確保

マイナンバーと保険証情報の連携における誤りが報告されており、データの正確性確保が課題となっています。2023年12月時点で約139万件の誤りが確認され、政府は確認作業を進めています。

出典:ドクタービジョン「医療DXの現状と展望―「令和ビジョン2030」の概要と課題」(2024年)
https://www.doctor-vision.com/column/trend/healthcare-dx.php

7-2. コスト負担と地域格差

医療DXを導入するための機器やシステム更新のコスト負担が、特に中小規模の医療機関にとって大きな課題となっています。また、地域による医療格差も存在しており、全国均一のサービス提供が難しい状況です。

出典:ウィーメックス株式会社「医療DXとは?メリット・課題点と推進のポイントを紹介」(2023年7月14日)
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/management-medical-dx

7-3. セキュリティ対策

医療情報は高度な個人情報を含むため、セキュリティ対策が非常に重要です。医療DXの推進にあたっては、情報漏洩リスクへの対応が不可欠であり、適切なセキュリティ対策が求められています。

出典:ワークフロー総研「医療DXとは?メリット・デメリットや政府の動き、推進の第1歩におすすめのシステムを紹介!」
https://www.atled.jp/wfl/article/39313/

8. おわりに:2026年に向けた今後の展望

医療DX令和ビジョン2030のロードマップによれば、2026年までに多くの新たなサービスや機能が導入される予定です。電子カルテ情報共有サービスは2025年度に運用開始予定であり、医療機関はこれに向けた準備が求められています。

医療DXの進展により、医療の質の向上、医療従事者の負担軽減、患者の利便性向上など、多くのメリットが期待されています。一方で、データの正確性確保やコスト負担、セキュリティ対策など、解決すべき課題も多く残されています。

医療機関は2026年に向けて、積極的に医療DXへの対応を進めることが重要です。特に、電子カルテの標準化やマイナ保険証の活用など、政府の施策に沿った取り組みが求められています。

出典:富士通「医療DX令和ビジョン2030のこれまでとこれから~2026年への備えとは?」(2024年5月30日)
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/healthcare/iryo-dx-reiwa-vision2030/column/20240530-02.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です